異世界転生、その裏側 ~毎日が非常事態宣言~
本日のお品書き。
山火事が起きました。
地震が起きました。
落雷が発生しました。
台風が直撃しました。
老人が3名と高校生が1名亡くなりました。
はい。
全部
全部、因果調整のミスです。
となれば、異世界転生が必要。
一人目の老人は同じような世界が良い、という事だったので
二人目の老人はゆったり生きたい、という事だったので
三人目の老人は刺激のある人生が欲しい、という事だったので
高校生はやっぱり剣と魔法の世界が良い、という事だったので
この手続き、全てミクリ達事務官のお仕事です。
地球側の神への承認依頼とそれぞれの世界の神への移動申請。
それぞれ付与する恩恵やらについては、担当する神への申請を。
老人達については若返りが必要なので、生命倫理管理委員会へ報告。
高校生は赤ん坊から再スタートなので、出生管理局へ報告。
作成する書類は山となり、鳴り響く
書類のミスを校正し、稟議回覧が完了した書類をファイリング。
異世界転生係はてんてこ舞いである。
「だぁぁぁぁっ!!!!手が足りないっ!!!」
ミクリは吠えた。
彼の同僚達も額に汗を滲ませながら同意する。
「ふ~ん、ふふ~ん。」
そんな緊迫する状況下で
イリューシアである。
ソファに寝ころび、雑誌をパラパラとめくりながらスナック菓子を貪っている。
仕事?
手伝うなんて
「あの。目障りなんで出てってもらえませんかね?」
「え~?だってここのソファ気持ちいいんだもーん。」
「ああ、そうですか・・・・・・!」
ミクリ達とイリューシアの間には途轍もなく高い身分の壁がある。
神や女神は世界の創造者であり管理者。
事務官は些末な手続きなどを行うただの労働者。
簡単に言えば、絶対的権力を持つ社長と平社員のような関係である。
天界も世知辛いのだ。
事務官達の手は止まらない。
書類へ文字を書き、束にまとめ、横に置く。
別の事務官がそれを確認してまた別の事務官へ渡す。
もう一人の事務官が問題ない事を確認したら、それを報告実行のトレイに置く。
提出前のダブルチェック、大切である。
報告実行トレイも報告先ごとに細かく分けられている。
別部門へ間違って提出すると二度手間だ。
効率化、大切である。
自動で報告される、なんて便利な事は無いので、ある程度溜まったら持って行く。
ちょうど
その口元には怪しい笑みが浮かんでいた。
「いや~、仕事が楽でいいわ~。適当にやってても何とかなるなんて最高!」
イリューシアは
本人は全く意識していないが、その言葉は事務官達に聞こえている。
全員がブチギレ寸前だが、今日は我慢できる。
何故なら―――
「何をやっておるかァァァーーーーー!!!!!」
部屋のドアを
「びゃあっ!!!!」
寝ころんだまま、イリューシアは跳ねた。
器用なものだ。
「イリューシアよ、貴様は、愚かで怠惰で間抜けで阿呆で馬鹿で危機感が無く、
箸にも棒にも掛からぬ愚か者だが、曲がりなりにも神であろうが!!!」
「愚かって二回言った!!二回も!!」
「黙らんか!」
「ぴゃいっ!!」
転生課どころか生命管理部をまとめる神。
イリューシアを零細企業の社長とするなら、陽春は世界企業の社長である。
力関係は言わずもがな、である。
「人間を何だと心得ておる!貴様の失敗は即ち人の死である、自覚を持たんか!」
「え~、だって~・・・・・・。」
「だっても何もあるか!!!!」
「ぴぃぃっ!」
ミクリと事務官達はほくそ笑む。
イリューシアを叱ってもらうため、以前から
こっそりやろう、と事務官達で示し合わせていたが、そもそもイリューシアが阿呆で
あるせいで、何をしても彼女は気付かなかった。
そのため、最近はもはや公然とその横暴の記録を取っていたのである。
𠮟責は続く。
イリューシアは床に正座させられ、神とは何たるか、を
事務官達はにっこりと
激務に立ち向かう。
「聞いておるのか!!返事!!!!」
「ひゃいっ!ひぃぃぃ・・・・・・。」
今日は素晴らしい日である。
事業拡大(無能のせいでやらなくてもいい仕事が増加)のため、スタッフ募集中!~生命管理部 転生課 異世界転生係~ 和扇 @wasen
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