二、明けの洛都
大陸の〈千将の将の乱国〉を別にして、〈
国の北方を占める〈
豊葦国まで船旅だった私は当初、川船に乗り換えるか、街道を北上し、すなおに洛都の正門〈
品物の買付けのため、私は藩の役人を通じて、洛都における案内人を見つけてもらっていた。名無しの七嗣という人を食った名前――もちろん偽名に相違ない――の男は、どこにでも溶けこめる職人風の黒半纏を引っかけ、くたびれてはいるがこざっぱりと洗いざらしの
私は若すぎると感じた。好奇心の強い野良猫めいた、黒くきらきらした両目に浮かぶ自惚れの光も気になった。けれど夜盗は、
「あの屑野菜売りと辻説法、それから女琵琶法師と左の衛士」
羅生門の威容にちらりとも目を
「すべて〈
祭を楽しもうと洛外から押し寄せる、手頃なカモを見定めているのだという。洛都を仕切る裏の大物の一人、
「今度の仕事に俺を選んだあんたは正しいよ。俺は一匹狼だが、〈
洛都の富者に安眠を許さない大盗賊、風痍一党に頼っていたら、私の資金は買付けの最初の試みで、はや底をついていただろう。でなければ何事もなく、達成感とともに帰路についていたか――法外な値をつけられた、偽物の品を掴まされて。
役人の推挙もあったことだ。ひとまず私は七嗣を信用した。若者は、羅生門とは打って変わって人気のない門から私を都へ入れてくれた。自身のねぐらは明かさなかったが、獲物のことなら何でも聞けと請け負ってくれた。
宿でゆったり荷ほどきしながら、私は夜盗にさっそく尋ねた。
歌にも聞こえた洛都の桜――いずれの名桜ならば、誰にも気づかれぬ闇のうちに盗み出してこられるか、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます