死者とまた会えるとしたら。失われた時間を取り戻せるとしたら。
死者を仮想空間に甦らせる技術の生まれた世界で巻き起こる数々のドラマ。
この技術を提供する会社に勤める夕陽有里は、死に接する顧客たちの姿を通して自分の胸中で燻ぶり続ける後悔、あるいは自責の念と向き合うことになる。
生と死。
この普遍的なテーマへの回答に、特殊な方向からアプローチしたのが本作の特徴です。
SF的要素に学術的な味付けをして、そこに理屈なしの感性を揺さぶる言葉を用意する。
作中に登場するギミックは、今はまだ非現実的ですが、旧態依然とした概念への問いかけにも読み取ることができます。
ある種、行為に潜む意味を追求することもテーマにされているのかなと思いました。
また、そうした問題意識に傾倒しすぎず、物語の純粋な面白味にも熱が加えられています。
そういった部分の塩梅から、作者様は作品を魅せるのがお上手なのだと思いました。他の方のレビューにもあるように重い内容ですが、個性的な登場人物や地の文の軽妙な流れもあり、ライト文芸のような趣があります。
あまり構えずとも楽しめる内容なので、少しでも気になったら読むことをオススメします。