第42話 〝召喚士の独り言〟
結果から言うとシスたちは、ロンドニキア竜王国の王宮から逃げおおせた。首尾よく、食料や地図や魔道具が満載された馬車を見つけて、シス、フィオ、ホロウが旅で困らない程の充実っぷりだっったが、最初シスは上手くいったとしか考えていなかった。王都から抜け出して少し太陽が出始める直前に、黄金妖精は叫んだ。
「シスへっていう手紙があるわ。えーと、なになに……」
――――シスへ、この手紙を読んでいるということは、王都から逃げおおせたということだろう。お前とブリジットと黄金妖精には世話になった。いまだに感謝の念が尽きない。骸人族が再び現れる一年後の異界寝食までにお前たちなら、七勇者と七魔王候補を集められるだろう。シス、お前は俺にとってはできのいい弟のような存在だった。別れは辛いが、お前の明日の幸せを祈っている。
――――マグナス・ジオ・ロンドニキアより
「全部筒抜けだったのか……――マグナス竜王陛下には一言声をかけるべきだったかな」
『悟っていたみたいだし、いいんじゃない? 次に会う時までに、いい結果を残せば、会う時も、恥には思わないでしょう』
「そりゃそうだな。一年後を目指して……――三人共頑張ろう」
『シスはガチガチな台詞しか吐かないんだから』
そう言うとリンドベルは雲散霧消した。太陽が地平線の彼方から顔を出そうとしている。闇の眷属たる黄金妖精は姿を隠さなければならない。太陽は黄金妖精の煌めきを影らせる存在なのだから。
「お兄さま、これからどこに向かうの?」
「僕らが旅立つことを分かっていたから、ヒントをくれたんだろうけど、左手の〝紋章樹〟のことを訊きたいと思っている」
「じゃあ、東の獣人族のいる地域にすぐ向かう」
「いや、ラナフォード公国にはスカーレット・バレッタ叔母さんがいるはずだ。力を貸してくれると思う。若き女傑と言われているくらいらしいからね。最初は、ラナフォード公国に向かうよ」
ベオグランデ自治領は通らずに街道を抜けて、直接ラナフォード公国を抜けるため、〝生きる大森林ギムリ〟へと馬車を進める予定だ。そこで唐突に、声が聞こえる。フレアベルゼとレナスが魂に直接話しかけてきたのだ。
「冥府より出しものよ――――――汝に命ず――――――大いなる業火と永劫の氷雪をもって――――――我の盾となり――――――敵を穿つ矛となれ‼ 顕現せよ――――――【火焔の鉄姫】フレアベルゼ、【断罪の冷嬢】レナス‼」
幼い姿のレナスとシスと同じくらいの歳のフレアベルゼが現れる。大人数が乗ることを想定された馬車だった為座る場所に困ることはない。
「わっちの主よ、倒れた時はどうなるかと思いんしたが、元気になって良かったでありんす」
「我が主様、無理はしないでね」
「ありがとう、フレアベルゼ、レナス」
シスは〝魔王の書〟の最後のページを何とはなしに開いた。
――――この魔導書に選ばれた者へ。選ばれた不運を呪うのではなく、前だけ見て進め、己の道が必ず見つかるはずだ。
――――パトゥ・ルツィフェーロより。
――――――ルプス、僕は……――必ず英雄になるよ。
【完結保証】歴代魔王を召喚する♂、シス・バレッタの独り言 色川ルノ @hekiyuduru
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