第2話打ち上げ花火
セミの鳴き声がする朝。
夏の朝は騒がしい
「起きなさい!夏休みの課題終わってないんでしょう?」
私は息子に問いかける。
息子は面倒くさそうな声で
「分かってるよ」と返事をした。
自分の弟を見ているようだ
海の底にいる毎日を過していた学生時代。
特別な「夏」を過ごした「刻」でもあった。
あの学生時代から時は残酷に過ぎていき、私も母親になっていた。
小学4年生になる息子と優しく温厚な夫
どこにでもいるような、「幸せな家族」だ。
何不自由なく、お手本のような人生を歩んでいる。
喉に詰まらせた餅がある事以外は。
あの時、彼は何故私の元から離れて
いったのか。あの時、彼と再会したのは
偶然だったのだろうか。あのまま、探さなくて
良かったのか。私の、喉にはあの夏から
餅が詰まっている。いくら考えても餅は取れない。
最近では、息子の事で考える暇も余裕もない
また、私は忙しいという理由だけで
彼を忘れてしまうのではないだろうか。
時々、そんな不安に襲われることがある。
毎日忙しい日々を追う中、彼と再会した。
あの「夏」と同じ日がやってきた。
考えないようにしてはいたが
やはり、人間をやっている以上。気になってしまう
「今日はどこにも行かないでおこう」そう決めて
息子の部屋に時々顔を出す事と家事をひたすらに
やりまくって、気づけばもう。
午後3時になっていた
もう、こんな時間かと思っている時。息子から
「お母さん!アイス買ってきていい?」と聞かれた
私は、何も考えずに車に気をつけるのよと息子を
送り出した。
しばらくして息子が玄関を開けたそれと
同時に私は、胸の奥が大きく鳴るのがわかった。
真っ白な色の髪の毛した、あの惹き込まれる
ような瞳をした彼が居た。焦りながらも
息子に事情を聞く。息子は答えた
「家の前で座ってたんだ」
それを聞いた私は
2つの事が頭によぎった。
「私の事を探してここまで来た?」それとも
「この少年は彼ではない。私の考えすぎ?」
どちらの選択肢も捨てられないままでいる。
勇気を振り絞って、彼に聞く。
「何故、ここに居るの?私の元から離れていった
貴方が。どうして今頃戻ってくるの?何がしたいの?答えてよ…。」言葉を整理する余裕なんて今の私にはない。
感情のままに、全てを彼にぶつけた。
しばらくの沈黙の後、彼が口を開いた。
「あの夏。あれから、すずはたまに、切り株へ
来てくれていただろう?神社に住む者から
聞いてはいたんだ。ただ、僕とすずは住む世界が違う。これ以上、こちら側の世界を知ってはいけない。」
だから、突き放したというのか。それならば
何故。今更私の前に現れたのだろうか
胸を締めつけられる思いが込み上げてくる。
そんな私を見て。彼は優しな声で言った
「1度でいいから。大きくなったすずを近くで
見たかった、残酷な事をしてしまってすまない。
今回は、きちんと僕に関する記憶を
君の中から消して帰るよ。ありがとうすず」
彼の言葉で、私の心にあるダムは決壊した。
私が、しばらく泣いた後。彼は去っていった。
納得のいく別れ方では無かったが、不思議と
私の喉に詰まった餅は取れていた。
夫に名前を呼ばれている事に気がついた私は
目を開けた。
「あれ?何してたっけ。私…泣いてた?」
夫は目を開けた私を見て、安堵したような笑みで
「起きた?帰ってきたら2人して玄関で寝てるから
びっくりしたよ」安堵したような笑みを浮かべながら夫が言った。
隣を見てみると確かに息子も寝ている
何故、私はこんな所で寝ていたのだろうか。
そんな疑問を頭に浮かべながら息子を起こし
リビングに向かうと夫が言った。
「今日、花火大会で打上花火上がるってよ。
俺、線香花火は綺麗だけどすぐに
終わっちゃうじゃん?
儚い感じがするっていうか、だから打上花火の方が
好きなんだ!すずは?」
「私も同じ」そう答えたが、答えた後。私の心の中には私も昔は線香花火のような
儚さが好きだったのに
理由が思い出せない。という想いが残っていた。
今は、打上花火が好きだからいっか。
私の「夏」はカーテンを閉めた。
線香花火 空野むすぶ @1214528miyu
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