線香花火

空野むすぶ

第1話線香花火


儚いものは何故すぐに散ってしまうのだろうか。

私は共働きの両親に変わって毎日小学校4年生の

弟を世話しながらバイトに学校自分の時間なんて

あまりない。弟が夏休みに入ってからと

いうもの楽しい「夏」なんて過ごせていない

「私だって、海行ったり夏祭り行ったり

したいのに」ぼやいていると弟からいつものように

呼ばれた「はーい!今行くー!」と返事をし

やっていた洗濯物を一旦放置した。

課題をやり、弟の世話をしたらあっという間に

夜になった。

両親が帰ってきて「いい子に留守番偉いな!」

父がそう言った、勿論私にでは無い弟にだ。私は姉だ、私は褒められなくてもやらなくてはいけない。

いつからだろうそう思いながら、毎日を過ごしているのは部屋に戻ろうとした時、母に呼び止められた。「いつも、けんたの世話ありがとうね。

今度近くの神社で夏祭りがあるみたいなの、母さん達休み取ったのよ。だから友達でも誘って行ってきたら?」

私は、悩んだけれど「行ってくる」と返事した。

長い間、「海に沈んで息苦しい毎日だった、たまには地上に出て酸素を吸ってこよう。」そう思った

私は夏祭りまでの3日間海の底で生き抜いた。

勿論、友達など弟の世話で忙しく居ないが寂しくない1人で浴衣を着て、神社に向かった。懐かしい雰囲気に自然と私の胸も躍っていた。

屋台が並ぶ道をしばらく歩くと慣れない浴衣な事もあり疲れてしまった。

神社の鳥居をくぐり、少し奥に行くと。切り株の椅子がある、その椅子に座りながら小さな頃の思い出に浸っていた。

「ここに座ってよく、話していたな」

そう思い出した時

私はふと、思った。「話した?誰と?」友達なんて

昔から居ない。「私は何を忘れている?」何か大切な事を忘れている気がした

思い出さなければだめだ。

やっとの思いで記憶を辿り、思い出したのは

「優しい声と不思議なまでに惹かれる瞳の男の子」

それだけだった。

その日は家に帰る時間が来てしまったので海に沈む毎日に仕方なく戻ることにした。

夏祭りの日からモヤモヤとした日々を

少し過ごした。

その日はゲリラ豪雨だった、夕飯の買い物を

終えたばかりだというのに。

弟も家に居る、雨に降られる事を覚悟して

スーパーの入口から思いっきり走った。

あと少しで家に着く。そう思った時道の端にある

用水路に何かが居るのが見えた。妙に気になってしまい見に行った、真っ白な猫が溺れていた。見に行ってよかった早く助けないと思った時には体が動いていた。袋から買ったものを出して袋に猫を入れて、買ったものをかき集めて必死に家に帰った。

とりあえず両親が帰って

来るまでの間に夕飯を作り、真っ白な猫をお風呂に入れダンボールに入れて待っていた。そうしているうちにいつものように両親が帰ってきた、予想していた通りこの猫はなんだと不機嫌そうに言われた。

私は今日あった事を説明した、全部聴き終わった

両親はうちで飼おう。そう言った意外な答えだった。反対されると思っていた、私は安堵した

真っ白で惹き込まれるような瞳をしているこの猫

「不思議」だな、私は考えてるうちに眠りについていた。夜中にふと、目が覚めた。

まだ、ぼやけている視界の私

「ん?なんか、足元にいる?」そう思い足元を見ると1人の少年が居た。

不思議と懐かしいような感じがする

「貴方、だれ?」聞いてみたものの答えは

帰ってこない。

夢…なのかもしれない。

私が頭の中で色々考えている間に

少年が口を開いた。「また、助けてくれてありがとう。すずが来なくなって寂しかった。すず大きくなったね、また会えて嬉しかった。」

少年はそう言った。

私は全て、思い出した。まだ私が海の底に沈む前。

木から降りれなくなっていた、猫を助けた事を

その猫が少年になった事

「優しい声と不思議なまでに惹かれる瞳」

だった事。

儚く綺麗で大好きな友達だった事を。

毎日、神社の切り株で会おうと約束をした事。

しかし、しばらくした時。私は弟の世話をしないと

いけなくなった。海の底の毎日を過ごす度に

忘れていた。

大好きな少年を。私は少年に

「このまま、うちで暮らそう」と言った。

しかし、少年は「出来ない。僕は僕の世界に帰るよ

すずにまた会えてよかった。大好きだよすず、またね」行かないで欲しい。置いていかないで

一緒に居ようと

言いたいのに、不思議な眠気に襲われてそのまま

眠りについた、どれくらい寝ただろうか。

すっかり、外が明るくなった時、私は目を覚ました。弟が下で騒いでいる、何かと思って下に降りると「お姉ちゃん!猫が居ないんだ!猫が!」と

泣いている

私は、昨日の事は夢ではなかった。そう思いながら弟に「きっと、外に戻ったんだよ。大丈夫」と

弟を慰めた

何故、忘れていたのだろうか。あんな大切なことを

もう近くに居ないけれど。きっとまたどこかで

会えるだろうか。海の底に沈んだ毎日の夏だけど

線香花火のような遠い記憶を。取り戻す事ができた

特別な「夏」になった。

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