Part5 所有する西とシェアする東
ニンゲンのメスにぼくらタキャクのオスを奪われつつあるタキャクのメスは、だいぶ戦略を緩和はせねばならなくなったらしい。
例えば、気に入ったオスなら数回は食べることなく大人しく交尾させるとか。
*
交尾できず、メスに食べられてしまうオス。
交尾できても、メスに食べられてしまうオス。
交尾できた上、無事生きながらえるのはほんのごく一握りって話だった。
我らのメスはティラノサウルスのようだった……。
「え――ッ!? 安全に交尾できるメスがいるんだって?……」
「シッ! 他のヤツらに聞こえちゃうだろ」
「そうだぜ〜、ビタノ」
ぼくは早速、話を持ち掛けてきたネスオとジヤンに案内されて、そのメスの下へと……。
左右に分けて結んだおさげ髪のかなりカワイイ、メスだった。
ぼくたちの背の4、5倍はありそうなそのメスに向かってネスオは何やら話していた。
「――じゃ、そういうことだからよろしくね」
するとジヤンがぼくの背を押しつつ言った。
「そら、ビタノ。特別おまえを一番乗りにさせてやらぁ」
ワ――イ!
ぼくはもう、大喜びでそのおさげカワイイメスに寄って行った。
すると、大砲でも撃ってきたかのような勢いで、ふたつのアイアン・フィンガーが飛んできた!
ひッ!
凄い勢いで、そのメスの顔が迫り、大口を開けてガブリときそうだった。
もはやカワイイなんて思えず、恐怖しかなかった。
ギャ――ッ!!
何とか、すんでのところで逃げ出すことができた……。
*
……どういうこと? 話が違うじゃないか。危うくぼくは命を落とすところだったんだぞ!
あの2匹、ネスオとジヤンに文句言ってやんなきゃ! プンプン!
「ちぇ〜、のろまでドジなビタノのくせに運良く逃げ出すとはなぁ」
「折角、ぼくがあのおさげメスと上手く交渉したってのに」
「おまえ、口は達者だもんな」
「オスを1匹、食べさせてやるからって差し出す代わり、20分だけ交尾させてもらえたのに」
「20分の間、俺さまとおまえと交代で交尾するはずだったのになぁ。まぁ、またカモになりそうなヤツ、探そうぜ」
アミガサタケが生い茂る向こうでネスオとジヤンが話してるのを聞いていたぼくは思った。
くっそォ〜! そういうことだったのか!
「まぁ、なんて人たちなの! 許せませんわ!」
いつの間にかぼくの隣にニンゲンのメスがいて、話を聞いていたようだった。
そういえば、近頃は、ぼくたちタキャクのオスの一部に、少数だけどニンゲンて種族のメスと交尾したりするのもいたりするんだったな。
……確かに、同種のメスと交尾なんてハードルが高過ぎるし、何よりコワイよ。
ぼくももう、ニンゲンのメスと交尾することにしよっかな……トホホ。
「……ということで、いい子紹介してくれると助かるんだけど」
「そういうことでしたら、私立候補しちゃいます!」
「えっ……」
「いかがでしょう。私の名はボッコです」
そのニンゲンのメスを、メスとして見るとかなりの美メスだった。
他種族のメスとはいえ、なんてステキな子だろうか……。
最初こそ緊張したけれど、直ぐに打ち解け、ボッコと来る日も来る日も交尾をして過ごした。
いつしか一緒に暮らすまでになって、ボッコの作ってくれる餌もサイコーだった。今まで見たことも聞いたこともない、とんでもなく美味い餌だった。まるで魔法を使ったみたいだった。
「あなた、私以外の人を好きになっちゃいやよ」
「なるもんか、ゼッタイ!! 約束するよ」
そんな始終イチャコラしてるぼくたちを見かけて、あの2匹が言った。
「ああッ! ビタノのくせに、あんなステキなニンゲンのメスと」
「ビタノなんかにもったいない!」
「腐った木の実でもぶつけてやれ」
言いながら、ネスオとジヤンが投げつけてきた。
すると、すかさずボッコは、携帯していた筒状の物を握って2人に向けると、その先からもの凄い勢いで火球が飛び出した。
チュドーン! ドドーン!
火球は2匹には当たらなかったけど、2匹は酷く肝を潰したようで、慌てて逃げ出した。
初めて見たけど、魔法というものだ! やっぱりボッコは魔法使い……。
「キミ、なにもそこまで……」
「ビタノさんをいじめるなんて、私がゆるしません!!」
ネスオとジヤンの2匹も、いつしかニンゲンのメスと交尾するようになっていた。
しかもあの2匹――毎回違うメスと交尾してるじゃないか!
う、羨ましい……。
同種のタキャクのメスと交尾できても、無事生きながらえるのはほんのごく一握り。そのあいつ、スギデキってやつも羨ましいが。
「ぼ、ぼくもー! ぼくも他のニンゲンのメスで交尾させてくれる子、あちまれ〜〜!」
言ってみるものだった。そう叫ぶと直ぐにニンゲンのメスが3匹も寄ってきた。
うひゃ〜、まずどの子から、交尾を……。
――そのいとま、背後に殺気を感じた。
「私以外の者を……」
ボッコはすっごいコワイ顔をしながらそう言った。
あまりの殺気だったのか、寄ってきていた3匹のメスは逃げるように去って行った。
「私はあなたのことしか、好きじゃありませんし、あなたも私だけを好きでいてくださると誓ってくれたのに! キ――ッ!」
「あ、そうだったっけ」
「私はビタノさん、あなたと結婚したのです。浮気なんて許しません!」
「ケッコン? ウワキ? ナニソレ?」
聞き慣れない言葉だった。
「あら、そういえば……。あなたたちタキャクは結婚の概念がなかったわね。うっかりしてたわ。キチンとお話するので、ちゃんと覚えてくださいね」
ボッコは一呼吸置いて話し始めた。
「私たち人間の3分の2は、そういう生き方をしてるの。西に一夫一婦制の国、東に乱婚の国。私は西の国からやって来ました」
「いっぷいっぷ? らんこん?」
「私のいた国の方があざやかに豊かな生活をしてますわ。農耕に畜産をしたり」
「のうこう? ちくさん?」
「環境、生態系を改変することになるから、疫病が蔓延したりするけど、その都度医療なんかも進みます」
ボッコの口から初めて聞く言葉が沢山出てくる。
「豊かになると財産が生じ、それが争いの火種になったりもするけれど、問題ないわ」
「争いが起こっても問題ない?」
「その都度、科学技術も進歩しちゃいます。争いや土壌汚染は絶えませんが、生活水準はとても高く、すごく便利で、平均寿命なんかもとても長いのよ」
「……よくわかんないけど、長生きできるのはいいことだね」
「でしたら、あなたの身体もそのように色々とアップデートしてあげますね」
言いながらボッコは、ぼくのカラダを何やらいじくり始めた。また魔法を使うらしい。
「……けれど他にも人口増大など色々問題ありますけどね」
「デメリットもあるわけなんだ。よくわかんないけど」
「対する乱婚の東の国の女は、不特定多数の男たちと頻繁にエッチしてきたという歴史があって、私たちに比べ、感染症に凄く耐性があります」
「カンセンしょう?」
「もはや子作り目的というよりエッチを楽しむための身体になってて、そのため基本妊娠しにくく、特に生存することに優れた子種を選別、ふるいにかけては産んでを繰り返してるのです」
ボッコはさっぱりわからないことを言いながらぼくのカラダに見慣れない小さなカラクリ仕掛けの物を当てがったりしていた。
魔法の力でぼくのカラダが何やら変わってゆくようだった。
「東の乱婚の国の特徴としては、とにかく財産も何も所有しない民なのです。あなた方と同じく」
「……ザイサンとは? なんだろう」
「でも、ビタノさん、あなたは私との間に誓いを立てたのですから、私以外を好きになるのは許しませんからね」
その後も、ネスオとジヤンは毎回違うニンゲンのメスと交尾を繰り返していた。
スギデキは、巧いことまた違う同種のメスと交尾して生き延びていた。
「う、羨ましーよー! うわーん! ぼくも交尾したい……」
「タハ坊も交尾したいじょー」
あ、居た! ぼくより頭悪そうなのが! そう思った刹那、口をついて出た。
「あのさ、ホントは内緒なんだー。でも特別教えるけど、安全に交尾できるメスがいるんだけど行ってみない?」
「行きたいじょー」
ようし!
ボッコは確か、今日は夜遅くまで自分の国に帰って戻らないし、千載一遇のチャンスだ!
タハ坊には悪いけど、あのおさげ髪の同種のメスのところへと連れてきた。
タハ坊には聞こえないよう、こそっとおさげのメスと交渉すると、答えてくれた。
「……ふーん、オス一匹食べさせてくれるのなら、10分間までなら交尾オッケーよ。1秒でも延長したら分かるわよね」
やったぞ!!
「先に、食べさせてくれるオスを頂いてからよ」
おさげメスは、あっという間にタハ坊をたいらげて満足したようだった。
「じゃ、交尾させてもらうよ」
「ええ、いいわよ」
ぼくは交尾に取り掛かろうとしたが、何かおかしかった。
――な、無い!? ぼくのチンコが?
……あ、そうだった。
先日……ボッコが取り外し出来るよう、ニンゲンのカガクとかいう魔法で……変えられてしまったんだった……。
そして、ぼくのチンコは、ずっとボッコが預かっておくことになって…………。
「……どうしたの? 直ぐ時間過ぎちゃうわよ。早く交尾すれば?」
〈完〉
午後のタキャク族 西 喜理英 @velvet357
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます