Part 4 タキャク族のひみつ

 メスは産卵がもの凄く気持ちが良いらしい。交尾も気持ち良いが、その比ではないくらい。

 それにメスの場合、産卵する都度、交尾はより気持ち良くなるとか。だったら、ちゃんと交尾させてくれても良さそうなのにな。



 そのメスは、コーコツな表情を浮かべながら、少しあえぎを漏らしつつ、ぼくらの頭ほどの大きさの卵をゆっくりと産卵していた。

「うわぁ、なんだかエッチだね!」

「シッ! 声出すな」

「見つかったらどうするんだよ! ワセシめ」


 みんなでメスが産卵するところを、コッソリ覗きに来ていた……と言うと、いやらしいがそうではない。


 ぼくたちタキャクのそのメスは、オスとは違い、普段から大樹界の下層住んでいた。

 交尾からおよそ半年後に30個ほどの卵を産むのだが、産んだら産んだで、卵を他の生物の餌食にならないよう守ろうとか、そういった頓着がまるでなく、テキトーだった。

 ぼくたちはそんな卵を保護するため、わざわざ下層の方まで降りてきたのだった。

 産卵した卵は全て持ち帰り、ぼくたちの集落の安全な場所にまとめておく必要があった。

 ぼくたちは昔からそうしてきた。


 卵は孵化すると、出てきた子どもたちは概ね勝手に育つ。

 特に食事を与えたりせずとも、自ら食べ物を探したり、生きてゆくための知恵を身につける。


 タキャクは成人するまでオスメスの区別がない。

 8歳まで育つと、ようやく成人になるための儀式があり、おっぱいも膨らみ始めているが、チンコもあるといったふうだ。


 儀式では、2匹のうち1匹はチンコを切られる。

 次いで、お腹がぽっこりと膨らむまで、特別な餌を黙々と食べる。

 その後は、大樹の下層に捨てられる。


 捨てられた子どもたちは、チンコを切られた子とそうでない子と、それぞれペアになり、大きなまゆを作る。

 その中で6年に渡り、ほぼ眠って過ごす。繭の中でペアは互いのおっぱいを吸い合いながら。

 大抵はどちらか片方がメスになる。ならない場合もたまにある。

 メスはティラノサウルスのようにヤバいので、羽化してまだカラダがしっかりせず、動けないうちに――幸い、オスの方が小さい分早く動けるようになるので、その隙にとっとと大樹上層目指して逃げる。

 メスは兎に角大きいので、上層まで上がって来ることはない。


 オスは繭から出る頃には、おっぱいがぺったんこになっており、一方メスは育児をするわけでもないのに立派なおっぱいをしてる。

 その理由としては、オスを誘惑するためや、ミルクを撒いて獲物をおびき寄せ、狩りに使ったりなど諸説あるが、メス同士でおっぱいを吸い合って連帯感を高め合ったりもしている。


 ちょっと疑問がある。

 成人になるための儀式で、チンコを切られた子がメスになるのかと思えばそうではなかった。

 オスの中でも、儀式でチンコを切られた者が3割ほどいるようだった。

 切られても繭を出る頃には、更に立派になったものが生えているというのだ。

 ちなみにぼくはチンコは切られなかったオスだったりする。

 儀式でチンコを切る理由は、そこから繭を作るための糸を出せるようにするためでしかないのだろうか。


 繭の中で共に6年過ごした、ぼくのペアだったシジャイカは、随分と見違え美しいメスになっていた。

 シジャイカはいい子だったし、姉であり妹でもあるので、交尾したいと思い、機会をうかがってたけど、あえなく死んでしまった。

 あんなティラノサウルスのようなメスですら、恐れる天敵、食肉性植物ハッタンモメンの餌食となって。

 蠢く巨大な布のようなものが風に乗って飛んできたかと思うと、シジャイカに覆い被さって。シジャイカがもがけばもがくほど、絡めとられて……。


 そんなことがあって、長くふさぎ込んでいた。

 我が身を、あの心地よかった繭の宿りへと還したい。シジャイカと、うとうとと抱き合いつつ過ごした源へ。

 そんなこと言うと、マユコンと呼ばれたりする。

 

 そんな中、あのニンゲンという種族のメスがやって来て、何くれとなくぼくの世話を焼き始めていた。

「……ふーん、そっか。わたしたち人間にとっては、キョウダイでエッチとかタブーなのよ。まぁ、異種間エッチもタブーなんだけどね」

 ……キョウダイによる交尾ってタブーだったのか。


「繭の宿りへかえりたいねぇ。別に変じゃないけど。子宮ってわかる……かな? ワセシたちは卵生だからそれがないんだけど、人間は生まれた後は、母親の愛が子宮の代わりになって、次いで、母親から離れると恋人の存在が子宮の代わりになるの。疲れちゃったら帰りたくなるところよ」

 子宮? ぼくたちタキャクにはないものなのか……。


 驚きの偶然だったけど、そのニンゲンのメスの名は、シジャイカというのだった。

 ニンゲンのメスの胸の鼓動を聞くのも、繭の中にいた頃のような心地よさを感じるなと思い始めていた。



 〈了〉

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