Part3 二本足のへんないきものと

 ぼくたちタキャク族のオスにとって、メスは恐るべきティラノサウルスのような存在だなんて、なんて残念ないきものに生まれついてしまったんだろう…………。


 アミガサタケにもたれかかって、そう黄昏ていると、見慣れないいきものが寄ってきた。


 脚が2本しかないなんて、ぼくたちと随分とちがってるのに、上半身はぼくたちとそっくりないきものだったんだ。

「あんたたちの足って、へー変わってるな」

 そう言いながら、そのいきものはぼくの脚を興味深そうにしげしげと見つめてきた。


 ぼくは言ってやった。

「そっちこそ、へんなの」


「生殖器はどうなってんだ? へーへー、こんなところにあるんだ。ここが、こうなってて、ここがこう?」

「ちょ、そんなデリケートな部位いじくりまわすなよ!」

 ばくは不覚にも勃起させてしまった。


「……おいら、なんだかエッチな気分になってきちゃったな。あんた、なんて名前だい?」

「ワセシだよ……。てか、種族も違うし、オス同士で何言ってんだよ」

「オスだって? ワセシくんよー、なんだか育ちが悪いのか。その場合、男って言えよ。もっともオイラは女だけどね」

「えっ、オンナ……って、つまりメス!?」

「だからメスなんて言うなよ。女の子だよ。女子、人間のレディーだい!」

「ニンゲン? メスってフツー、ティラノサウルスくらい大きいんだけど」

「オイラたち人間はそんなおっきくならないよ? ……おっぱいだってほら、結構大きいよ。オイラたちの生殖器は足と足の間にあって、ワセシくんの生殖器だって挿れられるよ。……えと、試してみる?」


「そ、そんなこといけないよ!!」

 ぼくたちは他種との交尾は、強いタブーの意識があった。何やら危険なものも感じるし……。

 それに他種と交尾すると、精神病の烙印押されたり、メンヘラに特殊性癖のヘンタイさんとか差別され迫害されることになる。炎上案件なんだ。


「見てたぜ、ワセシ。俺はめっちゃあの種、ニンゲンてやつのメスってエロいと思うけどなー」

 不意にやって来た近所に棲むデキスネは言った。


「おー、あんたは話が解る感じかい?」

 

 デキスネとニンゲンのメスは、直ぐにいけない交尾を始めてしまった。

 ぼくは恐ろしくなって逃げ出してしまったけど、ちょっと怖いもの見たさで、離れて見ていることにしたんだ。

 デキスネのやつ、全てを失う覚悟なんだろうか?



 夜になるとぼくの家にデキスネがやって来た。

「えへへ、明日も交尾しようって約束しちゃったもんねー。羨ましいだろワセシ」

「べ、別に……」

「もう同族のメスとなんかやってらんないよ。交尾させてくれるのかもわからないし、させてくれたとしてもその後は食われちまうんだぜ? だったら、あのニンゲンのメスの方が全然いいじゃないか!」

「……でも、ぼくたちの間では、タブーだよ。キミは頭おかしいとか、ヘンタイって言われてもいいのかい?」

「俺はそんなこと……。き、気にしないね!」

 デキスネはそう言ったっきり黙り込んでしまった。


 翌日びっくりすることが起こっていた。

 こっそり、デキスネの後をつけると、あいつは人気のないところで、昨日のニンゲンのメスと会っていた。でも、それだけじゃなくて、なんと、他にもニンゲンたちが沢山……。あれはみんな、ニンゲンのメス? 


 デキスネの前に長蛇の列を作っていた。あんなに沢山のニンゲンと交尾を……。



 その後、デキスネから聞いた話だが、ニンゲンというのは、好奇心が強くて、ヘーキで他種と交尾しちゃうようなヘンタイもそこそこ居るとか。

 それで、沢山のニンゲンと交尾することとなったらしい。


「ニンゲンてさ、空を凄い速度で飛ぶ旧世界の遺物に乗ってやって来る。遺物とは言っても、まだ動くのもニンゲンの国には沢山あるらしいんだ。いつか行ってみたいな」

 デキスネは言った。   



 デキスネは来る日も来る日も、ニンゲンと交尾を続けていた。

 交尾しても食べられたりしないのはいいかもだけど、子どもを儲けられるのかどうかは難しいな……。不毛だよ。


 そうしてるうち、デキスネは病気になって死んじゃった。


 ある日、あの最初に遭遇したニンゲンのメスがやって来て言った。

「デキスネくんは、オイラたちが持ってる特有の細菌が伝染ったのが原因で、死んじゃった。あんたたち種族にとっては、その細菌に耐性がなかったんだね……。悪いことしちゃったな……」

「随分穏やかな顔して、満足そうに死んでいったけど。まぁ、ニンゲンの国に行けなかったのは心残りだったかな」

 ……あれだけ交尾できたんだ、そこは満足だろう。


「満足そうにか……。それはあるかも。デキスネくんね、オイラたちの女子の丁度100人とエッチして、男子とは8人とエッチしたんだ。でね、そのうちたった一人だけど、デキスネくんの種付けが成功して、3つ子を出産したんだよ」


「えっ、なんだって!?」


 

 それから、数十年――。

 デキスネの3匹の子どもたちも無事、成長したこともあり、デキスネが死んだ原因となったニンゲンの持つ細菌に効く薬も作られもし、ぼくたちタキャク族の中でも、マイノリティながら、ニンゲンと交尾するグループも現れた。

 

 そのうち、もっと交雑種も増えて、さらにその先は、ぼくたちタキャク族とニンゲンがすっかり混じり合ってしまうんじゃないかって思う。


 今じゃ頻繁に、差別反対デモも行われていた。    

 ぼくも参加している。


 

 〈了〉

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