Part2 タキャク族の交尾大戦略

 *1節


 世界最大の木は、セコイヤ種だろう。

 高さは100メートルを超えるものもあり、その幹の直径は5メートルほどにも及ぶ。


 大樹界は、そんなセコイヤの数十倍はあるものがざらに点在する多様な植物層の王国であった。

 またセコイヤは針葉樹だが、もう針葉樹は滅んで久しかった。

 


 ――脱皮をして、外骨格部位が硬くなるまでは動けないタキャク族。

 そうして、その期間においてのメスを狙っては交尾をする、したたかなオスの個体が増え出していた。


 デコーヌはキレ気味に言った。

「キ――ッ! 毎回、毎回、ただで交尾するとか許せない!」

 一緒に居たボコーネはまだ幾分か落ち着いていた。

「そうよね。イヤーな世の中になったものだわ」

「あんな貧弱なオスどもでも、食べないと栄養が偏って美容に悪かったりするのよね」


 *


「交尾だ! 交尾だ! ウッホ! ウホウホウッホッホッ!」

 5匹のオスによる交尾特攻隊のうち、1匹が様子をうかがって気が付いた。

「……えっ、ちょ、ヤバ! あれじゃ交尾できないぞ」

「最近どのメスも、あんな感じみたいだぜ……ここもダメだったか」

「どーなってんだ!?……」

 

 5匹たちはやがて、大きな日陰の下に目をやるのもやめて、立ち去って行った。


 日陰の下には、放射状に張られた網があり、その中央には脱皮直後の動けないメスが確かにいた。

 しかし、そこにはもう一匹の動けるメスの姿もあったのだった。

「丁度、わたしとデコーヌとでは脱皮周期が違ってて助かるわ」

「脱皮して動けない時は、こうしてお互い守り合えるものね。うふふ」


 好きに交尾されていたメスたちに手を打たれてしまったオスたちの未来は如何に。



 *2節 


 タキャク族のオスたちが、何匹か集まり愚痴をこぼし合っていた。


「ああ、我らは交尾をしたらその直後に食われるという呪われた宿命にあるとはな……」


「いや、まだそれなら良い方だ。もっとも気に入らないオスなら交尾すらもさせて貰えず、ただ食われるだけってケースも多いんだぞ」


「交尾後食われるか、交尾できず食われるか、どっちにしても問題だぁぁぁ!」

「ああ、痛いのはちょっと勘弁だよな」

「わー! 死にたくないー!!」


「……でも、どーせいつか死ぬのなら、やっぱり、とびっきりの美メスに」

「そうだ!」

「そうだ!」

「た、確かに!」


 やがて、特に美しいメスばかりに向かって、オスたちの死の行進が見られるようになった。

 魅力のないメスの血は絶え、美しいメスばかりが増えるという結果となってしまうのだろうか。



「こっちへいらっしゃいも」

 ごっついタキャク族のメスがオスを誘っていた。並みのメスの2倍近くの横幅はあるだろうか。

 更に、ごっついのは体躯だけでなく、顔も見事なジャガイモといったふうであり、通常のオスたちならそっぽを向きそうな容姿であった。


 誘われたオスは、思った。

『……ナニ寝言ぬかしてやがる。ゼッタイ、あんなので死にたかないね』


「溜まってるんしょ? ちょっと交尾しよ。あたい、絶〜対、あんたを食べたりしないも」

「ほ、ホントにか?」

 オスは言いながら、いやしかしと躊躇していた。

「あたい、ホントにあんたを食べないも」


 オスは次第におずおずと近づいていった。

 確かに、襲いかかって食われるような気配はなかった。

 ごっついメスは、ボテっとアザラシのように横になったまま動こうとはしなかった。

 オスは恐る恐る、メスのカラダを指先でちょいちょいと触ってみたが、それでもメスはなんの反応もなかった。

 安全そうと判ると、オスは溜まったものを吐き出すよう、交尾を始めた。


 交尾を終えても、そのオスはそのまま無事に帰ることが出来た。

 タキャクのオスたちの小さな集落で、その件は直ぐ広まった。



 例のごっついメスのところには、5匹のオスの列ができていた。


 それぞれ、交尾を終えて5匹目のオスの番となり、いざ始めようとすると、ごっついメスは急に態度を変え、そのオスを食った。

 

 後日、ごっついメスのところには4匹のオスの列ができていた。ごっついメスは、4匹目だけを食った。

 来る日も来る日も最後尾のオスだけを食っていた。


 タキャク族のオスの間では、そんなごっついメスの存在が噂でもちきりだった。

「美しいメスではないが、安全に交尾させてくれるとは……」


「本当に安全なのか? 近頃、ノビにジャイにスネ、他にもキテやブタゴやトンガの姿が見えんが、食われたんじゃないのか?」


「俺たちを食うのは、何も同種のメスだけじゃないだろ。天敵なら他にも色々いるじゃないか」


「いやでも、拙者、先日交尾しに行ったおり、ノビと一緒だった気がするが」

「わしも、交尾しに行ったとき、確かブタゴの顔を見たぞ。そーいえば」


「……本当に安全なのか?」

「しかし、確かに交尾までして生きて帰ってきた者たちが、ここには大勢居るという事実はある!」


「交尾できて、しかも食われない可能性……。あれこそ可能性のケモノメスなのではなかろうか」


 結果、ごっついメスには充分過ぎるほどの需要ができていた。

 また、オスたちにそっぽを向かれてしまうメスたちのロールモデルともなっていった。


 長きに渡って、タキャク族の交尾史はそのようにあり続けた末、オスたちにそっぽを向かれてしまうタイプのメス及び、突出して美しいメスという両極ばかりが残った。

 標準なメスの血はほぼ絶滅危惧種となってしまった。


 突出して美しいメスは、競争相手であるごっついメス型の戦略に負けじと、より強力な対抗策を打ち出していた。

 西にパースミレ。

 東にトリーム。

 北にスパミ。

 南にモナス。

 それらメスたちは、誉高き四大美メスと呼ばれるほど美しかった。

 加え、それぞれがおパンツから、殆ど紐のようなTバックを身につけて、ポールダンスやら、かなり際どいポーズをとって誘ったのだから、オスたちの恐怖感は吹っ飛んだ。


「もう交尾できなくてもいいッ! あなたに食われたい――ッ!」


 オスたちの死への行進はマッハまで加速したという。


 


 *3節


 魅力のないメスの〝食べたりしないから安全に交尾できるわよ〟と釣る戦略がタキャク族メス全体の55%ほどに見られ、突出した魅力だけで釣る戦略は30%ほどだった。

 では、残り15%はどうなってるのだろうか。


 実は、脱皮直後に動けなくなった隙を狙われて交尾されていたうっかりメスも少々存在していた。

 だが、いつまでもただ黙って交尾されるだけではなかった……。


 脱皮直後のメスに出くわしたオスは思わず歓喜の声を上げた。

「マジか! 脱皮期に守りがいないメスもいるという父さんの熱い話は本当だったんだ! しかもかなりの美メスKAWAII!」

 そのオスは、もう交尾する気満々で、動けないメスに吸い寄せられるように近づいて行った。


「超ラッキー! いただきまーす!」

 言いながら、早速ことを始めた。


「おっ、おう、こ、これは……! はうッッッ! な、なんたる名器か! は、はぐぅ!」


「そうでしょ? みんなそう言うのよ。なんだったらゴックンしてあげたりなんかしてもいいのよ」

「うっひょ〜! た、たまらん……。そ、それもおなしゃす!」


「あー。もう一回いいっすか〜」


「あと一回! こりゃ何回でもできそうだ!!」


 オスはすっかりお猿化し、時を忘れて耽った。

 いつしかそんなオスの肩をしっかり、左右のアイアン・フィンガーが捕らえていた。

「それじゃ、動けるようになったわたしのターンね。さて、どこから食べようかしら」

「たまら〜〜ん」

 深くお猿化しているのか、もはや状況が飲み込めていないらしい。


 脱皮後、しっかり硬化するまでオスを繋ぎとめておく――そんな戦略を身につけたメスは、全体の14%ほどを占めていた。


 合わせてもまだ99%。

 残る1%のマイノリティ・リポートとは。


「おっ、まさかの脱皮直後なのに守りをつけてないメス発見! やっぱり、探しゃあいたんだな。都市伝説じゃなかった! ラッキー! いただきまーす!」

 そんなメスを見つけ出せたオスは、しめしめとばかりに、早速メスの凹に自らの凸を深く奥まで合わせた。

「……まぁ、フツーかな、コンニャクとそう変わらん的な? ……それにそんな魅力的ってほどのもんでもないフツーな見た目のメスだな」

「なによ! 失礼ね! 勝手に始めといて」


「まぁ、第二ラウンドで終わりでいっか。さっさとずらかろう」

 オスはそう言いつつ何か違和感を感じた。

「ん……? 抜けない? えっ、な、なんで!? どうして!? なんで!?」


「オホホホ! 膣痙攣ちつけいれんですの」


「えっ、そんな……それこそ都市伝説じゃないかぁ――ッ!」

 

「ハメられたのはあなたの方ね。さぁワタクシとひとつになりましょう」

「もう、な、な、なってるけど?」

「ワタクシの血となり肉となるという意味でですわ」


 自ら膣痙攣を起こせるメス。そんなヤンデレ地雷個体も1%は居たという。



 〈つづく〉

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