26話 ギルド戦終了後のエクレア
エクレアの応接室にて、ディアから作戦の全容を聞かされたジオは、シバと共に愕然としていた。
「アサヒが負ける作戦だったの!?」
「な、何故そんな大事なこと、副団長であるシバに教えないワン」
「敵を欺くには味方からと言うでしょう? 周囲に知られないように、全容を知る人物も最低限に抑えたかったのです」
「そうは言われても寿命が縮まったかと思ったワン……」
シバが言うように、「作戦でした」と言われても、アサヒがゼフィール王に敗北した時の絶望はとんでもない。
ジオは後もう少しのところでエクレアの男達に「風俗にでも働きに行こうか」と提案するところだった。
「良かった……言わなくって……。それで、他に誰が作戦を知っていたの?」
「アサヒさんとわたしと、そしてルーシーさんとバハムートさんです。バハムートさんには連絡係をお願いしてました。ルーシーさんは有力者にノーマークでしたので、商人を動かしてもらいました」
「そっか……ルーが裏で資金を稼いでくれてたんだね。冒険ができなくても、別の形で力になってくれたんだ」
冒険者として再起不能という失意の中、ルーシーはギルドの窮地を救う役目を負ってくれた。
感謝してもしきれない。
「願わくば、ルーとまた冒険に行けたらいいな」
「ルーシーさんもジオさんと同じように希望されてました。今後もっと良い義足を開発しなければいけませんね」
「え?」
「それにしても、ゼフィール王に負けた時のアサヒさん、迫真の演技でしたね。まさかあそこまで悔しそうにできるとは思いませんでした」
「あれは演技ではないからな。当初の作戦では、お前はあの場にいない予定だっただろう?」
「大事な局面だから、見届けたくなりまして。でも、それとこれと、どのような関係が?」
アサヒがディアの入った木箱に向けて小声で言う。
「お前の前で、わざとでも負ける姿は見せたくなかった」
数秒の間を置いて、ディアが「感情論は嫌いです!」と叫んだ。
「うわほほほほほほほほ、金貨の風呂だ、金貨の風呂だ」
「エイト氏、あまり汚してはダメでござるよー。その半分以上は後日商人に持っていってもらうでござるから」
金貨の山を泳ぐエイトをベヒーモスが咎める。
30億の金貨は置くスペースに迷い、とりあえずギルド戦終了後の処理が落ち着くまで応接室に置いていた。
エイトが金貨にしがみつく。
「やだーーーーーー! これは俺様が一度触れたんだから、それにくっついてたモンひっくるめて全部俺様のモンだーーーー! 誰にも渡さねーーーー!」
「あははは、エイトってば、それじゃあこの世界のもの全てエイトのものになっちゃうじゃん」
ジオは微笑みながらエイトのわがままにツッコミを入れた。
ギルド戦は無事優勝した。
エクレアの危機は去ったのだ。
そう安堵していた故に、誰もが油断した。
何もない空間が光ったと思った直後、ゼフィール王が部屋の真ん中に突然現れたのだから。
「「「……!?」」」
「うぇ!? お、おーさま!?」
幽霊のように突如現れたゼフィールに、アサヒを除く全員が身動きを止める。
ゼフィールを前にすると、あのエイトすらも猫の子のように大人しくなるのだった。
圧力が尋常ではない様子を見ると、ことの顛末を全て知っているように思う。
「お、ゼフィール、わざわざご足労だな」
慣れた感じに会釈するアサヒを無視して、ゼフィールは木箱へと歩を進める。
「その者、木箱の中にいるのはわかっている。姿を見せよ」
「……おりません」
ジオは思わずエイトと顔を見合わせた。
エイトが顔で「こいつ馬鹿なの?」と語る。
ディアの返事がかなり癪に触ったのだろう。
ギリ、とゼフィールが歯を軋ませた。
「私はこのような……! 人前に立つこともできぬ弱者に負けたというのか……!?」
屈辱に震え、怒りが収まる気配のないゼフィールに、木箱から出る気配のないディア。
誰でもいいからこの場を納めてほしい、そう願わずにいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます