23話 敗北


 アサヒへゼフィールの一撃が入り、試合が終了した。


「あのアサヒがゼフィール陛下に負けた!?」

「こんなことが、あるのか!?」

「実力領最強なんじゃないのかよ糞雑魚が!」


 とてつもなく入れ込んでいたのか、見学者から驚愕の声と共に、アサヒへの野次も飛び交う。

 そのような中、エクレアのメンバーは皆信じられないといった様子で呆然としている。


「アサヒが負けた……? それじゃ、エクレアはどうなるんだ? 皆は、僕は……」

「エクレアを……守れなかったっ……シバはどうすればっ……」


 頼みの綱であるジオとシバは、地面にへたり込み、独り言を呟いているばかりで、立ち直る様子がない。


(それで良い。私の所有物となるならば、思考など不要。何を考えることも感じることもなく、私の命に従えば良い)


 それらを満足気に見渡した後、ゼフィールはアサヒを見据えた。

 アサヒは屈辱に耐えている様子で、口を引き結び、震えるほどに拳を握っている。


「どうだアサヒ、敗北の味は? 苦いものであろう」

「っ……!」


 アサヒは睨み返すだけで何も言わない。

 よく理解しているようだ。

 勝者と敗者の、絶対的な優劣を。


「相変わらず反抗的な目をしているな。しかし、お前も弁えているはずであろう? 実力に成果が伴ってこそ、望む未来を勝ち取る資格があるということを。このひと月で、お前はどのような成果を挙げられた?」

「……」


 答えられるはずもない。

 一度の敗北により、ギルド戦中に稼いでいたエクレアの蓄積金額はゼロとなった。

 試行錯誤して考えたこの企画も、仲間達の努力も、それに掛けた時間でさえ、全てが自分の所為で何の成果もなく消えた。

 凡人ではこの事実に心が折れ、勝者の前に頭を垂れることとなっていただろう。


 しかし、アサヒはゼフィールを睨み返すことをやめなかった。


「……お前にもそのような意志があったのだな。今後その意志と拳は私の下で振るえ。仲間と共に、な」


 去る間際、ゼフィールはアサヒが未だ背後に庇っている木箱を一瞥した。


(ふむ、遺物ではなく人間であったか。果たして何者か)


 そう考えるもほんの一時のことで、ゼフィールは振り返り、バルハロクを連れて帰路を行った。


 何者かはわからない。だが、人前に出ることすらできない弱者であることは、容易に想像できた。



 道中。


 城への馬車に乗るゼフィールに、外からバルハロクが話しかける。


「ゼフィール陛下、俺は今ようやく目が覚めました! やはり主君たる陛下こそ我が全て! 地の果てだろうと地獄だろうと着いていきますぞ!」

「そうか」


 普段から暑苦しい男がさらに暑苦しいことを言うので、ゼフィールは適当に話を合わせた。

 窓から眺める景色に勝手に映ってきたため、その男の顔を見てみると……


「……?」

 


 バルハロクは、大きい顔面にぽっかりと穴が3つ空いたような、ハニワのような顔をしていた。



「間もなく戦場ですね! 共に信仰領を野晒しにしてやりましょう!」

「そうだな……?」


 言うことは熱血、顔はハニワ。

 その格差が奇妙で、ゼフィールはしばらくバルハロクを眺めていた。



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