20話 風
「アタシの負けね。誇りなさい。貴方はこのアタシをイかせた4人目の男よ」と、眉間から流血しながらフェイル。
「またね、魔性の男。君、このオレに負けない色男だったよ」と、ひらっと手を振るルーザ。
「人前で堂々と半裸になるなんて、エクレアは変質者ばかりですね。フェイル兄上が負けたなら棄権します。それでは」と、軽蔑の目でシエム。
「えっ」と、拳を鳴らしながら振り向くバルハロク。
そう各々口にして、王子達はバルハロクを置いてあっさりと去っていった。
ジオがポカンとしていると、エクレアの仲間達が「やったでござる!」「ジオ先輩すげぇ!」と抱きついてきて、満足した後アサヒ戦の方へ応援に行った。
「やれやれ、今回も魔物化の力は見れなかったか」
「わ!?」
ジオが抜け殻のように佇んでいると、フォールが背後から幽霊のように声をかけてきた。
「あっさり退かれて意外だったかい? よく誤解されるけれど、僕らは実力を示した相手にはそれなりの敬意を払うよ。君は僕ら兄弟の中で一番強いフェイルを負かしたのだしね」
「運が良かっただけです」
「運も実力の内、と言いたいところだけど、ジオ君、最初フェイル相手に全力を見せていなかったね。最後の突きだけスピードも鋭さも全然違った。最初から全力を見せていたなら、フェイルも対応できたはずだからね」
「フォール殿下にはお見通しでしたか。騙す形になりすみません」
頭を下げると、フォールがやめるように手で制す。
「勝者は謝るものではないよ。君は最大限にフェイルに勝つ努力をした。君の努力が、実力がフェイルを打ち負かしただけのこと。今回の戦いで、僕もそうだし、弟達も君に好感を持ったはずだよ。今後はもっと気軽に接してきなさい。弟達が喜ぶからね」
「シエム殿下には嫌われていたように思いますが」
「まぁ、うん、そういうこともあるさ」
しかし、何故半裸になって、男に嫌われなければならないのだろう。
考えていると、フォールが「ねぇ」と話を転換してくる。
「ジオ君、今回の戦いで僕らに対する苦手意識、少しなくなったんじゃない?」
「……そうかもしれません。フォール殿下はともかく、その他の王族とは関わったら死ぬものと思ってました」
「ははは、素直で良いけれど、人の弟を死神みたいに言わないでくれる?」
「すみません」
「勝者は謝るものではないよ」
「……フォール殿下は僕に何をさせたいのですか?」
フォールが遠くを見ながら言う。
「ぶつからなければ分かり合えないこともある。人間ってそうだろう? 必要なのは会話さ。お互いに硬く閉ざしているこの状況では何も変わらない。消耗していくだけだ。ジオ君はそう思わないかい?」
「……?」
意図していることがわからず、返答に困っていると、フォールは「すまない、わからなかったね」と寂しげに微笑んだ。
ギルド戦最終日、エクレアの蓄積金額は1億5千万Gに到達していた。
朝、試合場の整備を皆でしていると、ブッチが個人戦の試合場の近くに、大きな木箱を10個ばかり積み重ねていた。
「ブッチ、何してるの?」
「乙」
「『ディアに最終日くらいは見届けたいとお願いされた』? でも、それにしては木箱の数が多くない?」
「乙」
「『木箱一つだけだと違和感があるから、物資に混ぜてカムフラージュをしようと思って』? なるほどね。それで、ディアちゃんはどれなの?」
ブッチが右下のものを指差す。
真ん中ではなく敢えて端に当たりを設置したことに、ジオは「なるほどね」ともう一度頷いた。
そして、ギルド戦最終日の決闘祭が始まる。
当たりの木箱の隣を、フォールが椅子を置いて陣取っている。
「「……」」
「気にしないで。箱フェチなだけだから」
ジオとブッチでフォールをどうしたものか迷いはしたが、フォールを納得させて避けてもらう方法が見つからなかったため、そのまま様子を見守ることにした。
王子ーズが敗北したことで団体戦に勝ち目がないと踏んだのか、この時ほとんどエクレアに団体戦を申し込む者はいなかった。
後はアサヒに決闘を挑んではお金を振り込むだけの、作業のような個人戦だけが続いていた。
「アサヒー、愛してるぜー!」
「いけいけー!」
「かっ飛ばせー、アサヒ!」
観客は態々自宅からベンチを持ってきて、ワイン片手に観戦している。
「なんだか気持ち悪いな。いくら大勝してるからと言って、敵のギルドを応援したりするかな?」
「……」
フォールが木箱に向かって独り言を呟いている。無論、木箱からの返事はない。
アサヒ戦に意気揚々と並ぶ参加者達。
その中で一層輝きを放っているのが、王国軍兵士長バルハロクである。
個人戦の順番が来た時、バルハロクは最高潮となる。
「うおおおおおおおおおおおお! 今日も来たぞアサヒィィィィィィィィ!」
「今日でようやくお前ともお別れだな」
「形上はな! だが、心配するな! 俺とお前の絆は不滅だ! 明日も明後日も毎日俺はお前を想う! この剣に誓おう!」
アサヒはバルハロクの木剣を絆諸共叩き折りたい衝動としばらく戦った。
「それでは始めるワン! 両者、尋常にーー」
シバが試合開始の号令をかけようとした時、試合場に不穏な風が吹き始めた。
風上を振り向いた参加者達が、それを見て次々に恐怖で凍りついた。
風に揺れる白髪に、血のように赤い赫眼。
実力領の統治者をーー。
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