19話 努力
「勝手に見たら?」
唐突に、ジオは自身の上着を地面に放り、身につけていたシャツを破るように脱ぎ捨てた。
血色の良い若者の素肌と、肩から魔物化した黒色の右腕が剥き出しとなる。
「「きゃああああああああああ」」
たちまちに、様々な意味での女性の悲鳴でいっぱいになる。
その中でアジュは突然出現したジオの半裸に卒倒していた。
「アジュ氏が倒れたでござる!」
「風呂覗いてたから慣れたものとばかり……」
ベヒーモスとシバが慌ててアジュの介抱にあたる。
「ふぅん、ジオ君って意外に良い体してるのねぇ。けれど、お生憎様。アタシ、年上にリードしてもらいたいタイプなの。子供に興味はないのよ」
フェイルが木剣を下段に構え、瘴気の吸入を促してくる。
「それは残念」
ジオは足元の瘴気が滲み出る石を手に取り、口元に持っていった。
「…………」
「ふふふ、瘴気を吸ったわね。行くわよ」
使い終わった瘴石を地面に落とした時、両者は駆け出した。
「はぁああああああ!」
無慈悲な猛攻だった。
フェイルは巨大な体躯を活かし、重い剣撃を雨のように降らせてくる。
これが頭にでも当たったら、負けるどころか頭蓋がかち割られ、試合場を生きて出ることさえできないことだろう。
「ほらほらほらほら! まだ使わないの!? 貴方の大事なギルドがかかっているのよ! それともひとりで逝くつもり!? そんなの許さないわよ! 逝くならせめてその前に、アタシをイかせてから逝きなさいよ!」
フェイルが剣を振るいながら、興奮気味に叫ぶ。
この時、フェイルが弱者を嬲る性的興奮状態になっていることは、必死に剣を合わせるジオには知る由もない。
30合、50合と木剣が打ち合う。
フェイルに鍔迫り合いから強く突き飛ばされた時、ジオは鉤爪の手で拳をつくった。
「"魔物の力"!」
ついに魔物化の力が来る、とフェイル含む周囲の視線は黒色の右腕に集中した。
◆
数日前の夜、ディアによる魔物化の実験が行われた。
魔物化した部位と肌の境目をマーキングし、様々な刺激を与えた上で反応を見るというものである。
瘴気を吸入し、その上で魔物化による怪力を行使しようとした際に、魔物化の進行が見られた。
また、怪我をした状態で瘴気を吸入した場合、その力が治癒に働き、同様に魔物化の進行が見られた。
つまりは、魔物の力に頼ろうとしなければ、瘴気を吸入しても肉体の魔物化は進まない。
◆
「ら?」
突如視界を覆われたフェイルから、間抜けな声が漏れた。
ジオが地面に落ちていた上着を蹴り上げて、フェイルの顔面に被せたのである。
「ああ゛!? 見せてくれるって言ったじゃない! 萎えるようなことしてんじゃないわよこのクソガキがァ!」
期待を裏切った上での騙し討ちに、フェイルが激昂する。
直ぐに邪魔な上着を地面に捨てて、木剣を水平に振るった。
しかし、木剣は空を切っただけで、相手を捉えることはできない。
「逃げた!? どこなの!?」
「ここだ!」
返答は想定外に真下から返ってくる。
フェイルが下を向いた時、懐で低姿勢でいたジオから、上方に向けて鋭く突きが放たれた。
「突き!」
「あっ……!」
ジオの渾身の突きがフェイルの眉間に決まる。
魔物化の力は、使わなかった。
先鋒戦 ジオ(300) vs フェイル(500)
勝者 ジオ
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