18話 脳筋魔女
ギルド戦25日目、残り5日。
参加者達がエクレアの莫大な貯蓄金額を狙うようになり、団体戦が激化していた。
強者も多く出入りするようになり、アサヒが個人戦から呼び出されることも増えていた。
当然のように実力領最強の称号を持つ男アサヒは、個人戦、団体戦共に勝率100%を収めた。
その陰で、全く話題にはならなかったが、同様の結果を収めている者がもうひとりいた。
◆
「アタシの相手もしていただける?」
そのぬるりとした一声に、熱狂していた場が冷水を浴びせられたように静まり返った。
紫の紅を刺した唇に、魔女のような装いをした長身の男、第二王子フェイル。
それがルーザとバルハロクを連れて団体戦を申し込んだ。
少し離れたところでは、見物するつもりのフォールとシエムの姿もある。
「うーん……」
団体戦の順番を決めかねているのか、シバが唸っている。
「大丈夫? シバちゃん、悩んでるみたいだけど……」
見かねたアジュがシバに声をかけた。
「非常に難しいワン。アジュ、シバの言う通りにメモを書いて欲しいワン」
「うん、わかった」
先鋒戦 フェイル
中堅戦 バルハロク
大将戦 ルーザ
「相手はこの順番で来るワン」
「フェイルさんってバルハロクさんの前に王国軍兵士長を務めていた方だよね? 一番最初に来るんだ……」
「バルハロクは変態だけどかなり強い。アサヒにしか勝てないワン。フェイルをエイトに戦わせて、あとの2勝を狙う方法もあったけど、それだとすごく嫌な気配がするワン」
「どういうこと?」
「最悪の場合、フェイルと戦うことでエイトが死ぬ」
「そ、そんな……! フェイルさんって凄く危険な人なんだね……」
戦闘力に差がある者同士を戦わせるリスクは高い。増して、フェイルは無類のサディストだ。目の前に捧げられた獲物を痛ぶらないはずがない。
「僕が行く」
シバが迷っていると、ジオが先鋒戦に名乗りを上げた。
「……うん、ジオに頼むしかなさそうワン」
「そんな……そんなの、ジオさんが怪我しちゃう! 私じゃだめかな?」
「アジュではエイト以上にハイリスクだからダメワン」
「でも……!」
気が気でないといった様子のアジュに、ジオはやや緊張しながら口を開いた。
「じゃ、デート1回」
「デート? 誰と?」
「君だよ」
「私ッ!??」
「この戦いに勝ったら僕は君とデートしたい。君がそれを約束してくれるなら、頑張ってくるけど」
「う、嘘だよね……? ジオさんが私なんかとデートしたいだなんて、そんなはずない! 別の人と間違えて言ってるんだよね!?」
「アジュとしたいんだよ」
「そんなはずない、ソンナハズナイ」と頭を振りながら繰り返すアジュを、嘘ではないと真剣な眼差しで見続ける。
やがて、アジュは観念したように微かに頷いた。
「で、でも……私なんかとデートの約束したくらいじゃ、ジオさんにやる気なんて出るわけが……」
「滅茶苦茶頑張る!!」
ジオは気合い上々でフェイルが待つ試合場へ向かう。
先鋒戦 ジオ(300) vs フェイル(500)
戦って直ぐにわかった。
フェイルの一振り一振りが重く、剣撃がまとわりつくように陰険に追いかけてくる。
速度も、力量も、剣技の練度も、フェイルが圧倒していた。
「この程度? 今のあなたでは、アタシには勝てないわ!」
「ぐ……!」
体の芯まで痺れるような打撃に耐えて、一度フェイルと距離を開け、体勢を整える。
ジオは肩で息をしているほどに消耗しているのに対し、フェイルは余裕磔磔な様子で笑みを浮かべている。
「幻滅ね。ゼフィールがあなたに熱心に執着するものだからどんなものかと思ったけれど、剣の腕も筋力も凡人、何の才能もないじゃない。年下のエイト君が出た方がまだ勝機はあったのではないかしら?」
「ま、努力してるのは認めるけど」と、フェイルが口元を手で隠しながら嘲笑する。
そんな舐めた動作中でも、手も足もでないくらいに隙がなかった。
「なんだかこのまま勝ってもつまらないわね。アタシ、弱い者いじめは好きじゃないのよ」
「よく言うよ。ただ終わらせるつもりなんかないくせに」
「あらやだ、わかっちゃった?」
会話を交わしながら次の動きに警戒していると、フェイルが「あ」とわざとらしく手を打ち、懐にあったソレをジオの足元へと投げた。
ーー瘴気が貯蓄されている石、瘴石をーー。
「ねぇ、例の力、アタシに見せてくださらない?」
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