16話 順調


 ギルド戦3週目、アサヒが寝不足であるという噂が流れる。

 

 寝不足など、アサヒに限ってそんなことがあるはずがない。しかし、万が一にでもそれが本当で、万が一にも他の者に大金が渡るようなことがあれば……。


 ということで、本日もアサヒ戦には長蛇の列が続いており、参加者達は元気にエクレアへ入金している。

 

 そして、本日もシエムら王子ーズが妨害に現れた。



 先鋒戦 アジュ(100) vs シエム(200)


 勝者 アジュ (MVP!)


 シエムが右手を押さえながら抗議の目をアジュに向ける。


「オイ! 開始と同時に木剣を投げるヤツがあるか! 目に当たったらどうするんだ!?」

「本当はね、それでもいいかなって思ったの」

「え……?」


 愕然とするシエムに、アジュはにっこりと笑う。


「だってそうでしょう? あなた試合が始まる前、ジオさんのこと見て下層の俗物って言ったよね? ジオさんの尊さもわからない不良品なんて、あっても仕方がないんじゃないかな。でもやめたの。ジオさんがね、まずは相手の手を狙うようにって私に言ってくれてたから。あなたみたいな人にも情けをくれるなんて、ジオさんは慈悲深い、神様みたいな人だね」


 その笑顔に悪意はなく、その瞳はどこまでも澄んでいて……。


 先鋒戦が終わった後、シエムはフォールの背後に隠れつつ、どん底まで落ち込んでいた。


「実力が格下でイカれた女にも負けた……恥晒しだ……死のう」

「シエム、ドンマイだよ。今回も相手が悪かったんだよ。次は勝てるよ、きっと」


 フォールが声をかけていると、三男ルーザがポンと手をシエムの頭に置いた。


「触らないでくれますか?」

「シエム、オレを心配してくれてありがとな……?」

「秒もしてません」

「でも大丈夫さ。今回は本気でやるから」

「毎回本気でやってください」

「我らが可愛い弟を辱めてくれたんだ。この借りはオレがしっかりと返しておくからな」

「ルーザ兄上に返してもらうなんて、屈辱の極みです」

「別に照れなくていいのに」

「照れてねーよ!」

「エイト君が来ようがジオ君が来ようがもう負けやしない。シエム、そして、本日お集まり頂いたオレの可愛い姫達、完璧で感動的な勝利を君達へプレゼントしよう。オレの勇姿をそこで見ていてくれ!」


 そう言い、ルーザは周囲に目一杯キスを投げまくった。



 中堅戦 ルーザ(350)vs アサヒ(999〜)


「なんでここで実力領最強が来んの!?」


 勝者 アサヒ


 先鋒戦 シエム vs アジュ ○

 中堅戦 ルーザ vs アサヒ ○

 大将戦 バルハロク vs ベヒーモス - (不戦勝)

『団体戦勝者 エクレア』


 


 大将戦に出るはずだったバルハロクが慟哭する。


「うぉぉぉぉ! アサヒと戦えない! アサヒと戦えないぃぃ!」


 犬の計らいにより、大将戦の相手は豚で、どう足掻いても団体戦でアサヒと戦えなかったことは、錯乱しているバルハロクには関係ない。

 不甲斐もなく大泣きする王国軍兵士長に、アサヒが優しく手を差し伸べた。


「アサヒ……!」

「100万G」


 こうして、エクレアは2回目の王子ーズの妨害も退けたのであった。

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