14話 中堅戦(解説:フォール、アサヒ)


「格下の俗物との勝負に負けて、挙句の果てに汚された……恥晒しだ……フォール兄上に失望されるっ……」

「シエム、大丈夫だよ。失望なんてしないったら。あれは相手が悪かったとしか言いようがないよ」


 試合場外にて、どん底まで落ち込んでいるシエムの頭を、フォールは撫でて慰めていた。


「それでアサヒ君。今回はどちらが勝つと思う?」

「いちいち俺に聞くな」

「ジオ君はステータス1割上昇程度ではルーザに勝てない。さて、どう出るかな」


 魔物化の力を直接目の当たりにできていないため、フォールにとって興味深い戦いであった。

 その対戦相手ルーザは現在、試合場の真ん中で四方へ投げキスを飛ばしている。


「相変わらずあんたのとこの三男はふざけた野郎だな」

「本人は至極真面目だよ。ルーザは才能ある女性を探しているのさ。優秀な子孫を残すための、ね。気をつけてね。ルーザが探してる才能って、アサヒ君が秘匿する子が持つ『眼』のことだから」


 周りに聞こえないように小声で忠告する。

 赫眼は劣勢遺伝子であるため、その要素を持つ者同士の交配は、子孫に赫眼が発現する可能性が高まる。


「それなら、気をつけるのはフォール、あんたの方だ」

「……なんでかな?」

「俺は結構短気な方らしくてな。頭に血が昇ると、自分を制御できなくなることがある。まぁ万が一にもないとは思うが、仮にあいつにあんたの兄弟の手垢ひとつでも着いたとしよう」


 その時、フォールは確かにアサヒから何かが出たのを感じた。

 熱いようで、冷たい、深い闇のようにどす黒い何かが。

 

「俺はお前ら兄弟とこの国を、滅ぼさない自信がない」


 その目はかなり本気で、鈍い眼光を放っていた。

 背中に冷たい汗を感じながら、フォールはかろうじて「嘆かわしきかな」と口癖を口にした。

 

「あの時の子犬は、忠犬ならぬ狂犬に成長していたのか....」

「人を犬扱いするな」




 中堅戦 ジオ vs ルーザ


「やぁ、君、弓矢の腕が相当なんだって? 若いのに凄いね。オレのお姫様になる気はない?」


 周囲への挨拶が終わった後、ルーザは跪きながらアジュの手を取っていた。

 試合場で待つジオが鋭く舌打ちを飛ばす。


「……ルーザ殿下、お時間が滞っております。今すぐここに来ないなら、僕の不戦勝ってことでよろしいですね?」

「あーあ。あんなに焦っちゃって。男の嫉妬は醜いね」

「良いから、早く来い!」


 ジオが苛立った声を上げると、アジュが手を取られたまま不思議そうに首を傾げた。


「でもジオさん。ジオさんのお相手いないよ。どこにいるんだろうね」

「僕の相手のルーザ殿下なら、今君の手を取っているその人だよ」

「え?」


 アジュがルーザに気がつき、「わ!」と勢いよく手を引っ込めた。

 まるで汚いものから手をよけるかのように。


「「……」」


 この国の王子に対して流石にやりすぎではないだろうか。

 観戦していたエクレアメンバーの血の気が引いていく。


「ふふ、照れ隠しか。かわいいね」


 ルーザは怒るどころか嬉しそうに微笑み、試合場内で殺気立つジオと対峙した。


「お手柔らかに頼むよ。エクレアの魔性の男」

「魔性の男はルーザ殿下の方では?」

「君もオレに劣らないと言ってるんだよ。君は女性だけではなく、同性や人外も惹き込んでいく。これを魔性と呼ばず何と呼ぶ? まぁ、それも今日で終わりだけど」


 中堅戦 ジオ(300) vs ルーザ(350)


「君が自分の魔物化才能に尻込みするだけのただのビビリだってことを、皆に見せてやろうよ!」

「やってみろ!」


 勝者 ジオ


 ジオはルーザに木剣を突きつけた。


「僕の勝ち」

「んー、今日はちょっと調子が出ないみたいだな。しかし、ジオ君、君なかなか強いね。才能を感じるよ。君って一人っ子?」

「そうだけど」

「お母さんはどんな人? 親戚に女の子がいたら紹介してくれない?」

「……」


 ドン引きするジオと、真剣に尋ねるルーザ。


 中堅戦の観戦を終え、フォールは「ふむ」と考え込んだ。


「……」

「フォール、解説しないのか?」

「解説も何も、よくわからなかった。今ジオ君って魔物化の力使った?」

「使った様子はないな」

「ジオ君って不思議だな。自分より実力のある相手に勝つなんて」

「アイツは強いからな。まぁ俺には及ばないが」


 隣で、アサヒは得意げに笑っていた。

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