13話 先鋒戦(解説:フォール、アサヒ)


 試合場にて、エクレアと王子ーズの団体戦が始まる。


「さて、始まったね。アサヒ君はどちらが勝つと思う?」


 フォールは隣で先鋒戦を見守るアサヒに問いかけた。


「当然のように話しかけるな。隣に居座るな。帰れ」

「ひどいな。僕と君の仲じゃないか」

「俺は今回のことで、あんたを敵と再認識したところだ」

「シエム達を僕が差し向けたと思っているのなら誤解だよ。僕は何も入れ知恵してないし、シエム達に着いてきただけ。優勝候補となれば、自然と刺客も招かれるものでしょ。それとも、君達はエクレアの催しに王族が来ることは予想できていなかったの?」

「……」


 アサヒは表情を隠すように別の方向を向く。

 言葉や表情だけでなく、体の一挙一動からも、その心理を覗くヒントになる。


(……ふーん、"否"か)


 他に読み取れることはないかとアサヒを観察していると、「ぶにゃ」と鼻べちゃ猫、ブナが足元で鳴いて沈黙を破った。


「フォール、あんたの猫か?」

「うん。名前はブナ。元は野良猫だったんだけれど、弟達が放っておけなくてね。僕が飼うことになったんだ。声も顔もとんでもなく不細工だよね」

「凄く可愛いな」

「は?」


 アサヒはしゃがみ込み、ブナの顎を撫でる。器用レベルSSの手腕はかなり良いようで、ブナは一瞬で滑落し、とろけた顔でゴロゴロと転がった。


「ははははは、可愛い、可愛いな!」


 猫と楽しげに戯れるアサヒを前にして、フォールは思わず空を見上げた。


「……僕は自分に自信がなくなってきたよ。僕の感覚が異常なのかなぁ」


 弟達だけではなく、実力領最強の男までも虜にする不細工な猫と、それに魅了されない自分。

 異常なのは、自分か、周りか、それとも世界か。




 先鋒戦 エイト vs シエム


 エイトと同様、シエムも二刀流の木剣を構えている。

 それを見たアサヒが、隣で意外そうに声を発した。


「へぇ、フォール。あんたの弟も二刀流なんだな」

「今回はそうみたいだね。シエムは兄弟の中でも努力家な方でね。あらゆる武器の練度を高めてある。どんな武器でもそれなりに使いこなせるよ」

「つまりは不遇ってことか」

「言ってやるなよ……」


 自分と同じ二刀流使いに、エイトは好奇心に満ちた目を向けていた。


「ふーん、王子様、お前も二刀流なんだ?」

「貴方の得意武器が二刀流のようなので、それに合わせているだけです」


 シエムが相手の武器に合わせるのは、相手の得意武器で負かした方が、心を折るのに有効である故だ。

 しかし、そんなねちっこい戦法に、最強の神を目指すエイトが気づくはずもなかった。


「へぇ、俺様に合わせてくれてんのか! お前良いヤツじゃん!」


 肩へと伸ばしたエイトの手を、シエムが冷徹に払った。


「気安く触らないでください。俗物」

「え、なんで?」

「ボクと貴方との間にどれだけの身分の違いがあるとお思いですか? 貴方は見るからに低脳で、野蛮で、下劣。この国の王子をお前呼ばわりしないでください。不敬罪で処罰しますよ」

「ふーん、わかったぜ。お前って俺様よりもちょーっと背が高くて、俺様よりもちょーっと良い顔してるけど」


 先鋒戦 エイト(188) vs シエム(200)


「俺様よりも器がめっっちゃちっちぇ〜〜〜!」

「無礼者!」


 勝者 エイト


 先鋒戦に勝利し、エイトは試合場の真ん中で悠々とXポーズを決めた。


「勝利のエーーーーーーーックスーーー!」

「オイコラ俗物!」


 シエムがエイトの胸倉を掴んだ。


「おあ、なんだよ? 触っちゃダメだったんじゃないのかよ?」

「そんなことはどうでもいい! それより最後の攻撃は何だ!? 何が『奥義・エイト様8連撃ー!』だ! 9連撃だったぞ!? ブラフを使ったのか、卑怯者!」

「マジ? いつも特に数えてないからわかんないんだよね。まぁ勝てたからいいや」

「良くない! ボクは全っ然良くない!」


 決闘が終わった後も、試合場の中で仲良く取っ組み合うエイトとシエム。


 先鋒戦の観戦を終え、フォールは蒼眼に手をやりながら解説する。


「基礎的な戦闘力としては、シエムの方が12程エイト君の上をいっていたんだけれどね。この逆境でエイト君のステータスが1割程向上しているようだね」

「俺達は"雷の冒険団エクレア"だからな。それよりフォール、あんたの目には何が見えている? 本当に赫眼じゃないのか?」

「それっぽくやってみただけだよ。上手いでしょ。これで目が赤かったら、皆赫眼だと騙されてくれるのかな」

「……騙されるだろうな」


 胸倉を掴まれて揺さぶられていたエイトが、唐突にシエムの胸を触った。


「ひ!? うわぁあ! な、何をするんだー!?」

「んー、ないよなー。なんかお前線が細くて綺麗な顔してるから女かと思ったんだけどなー」

「ボクを女扱いするな! バ、バカ、撫で回すな! やめろ変態!」


 腕力はエイトの方が上のようで、シエムはなかなかエイトを引っ剥がすことができない。

 その反応を見たアサヒが首を捻る。


「……んん? あの王子、もしかして」

「あ、アサヒ君気づいちゃった? 他言無用でお願いね。僕達兄弟も別に隠す必要ないんじゃないかなって思ってるんだけれど、本人がかなり気にしていることなんだ」

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