12話 王族の参戦


 ギルド戦が始まり1週間後、第一王子フォールは四男シエムと三男ルーザの引率でエクレアに来ていた。


 アサヒ戦は長蛇の列となっており、団体戦にも10組程が並んでいる。


 四男のシエムがその盛況具合を怪訝そうに見渡した。


「……随分賑わってますね。フォール兄上、エクレアの資金額は今どれくらいなんですか?」

「蓄積金額は3000万Gみたいだけれど、ギルド集会所の報告では0だね。嘘ではないよ。蓄積されている報酬は、正確にはまだエクレアのものではなく宙に浮いているようなもの。誰のものでもないからね」


 このまま勝ち進めれば、最終日に巨額の報告ができ、エクレアの逆転優勝となる。


(庶民だけ釣って、国営の機関には気づかれにくい仕様というわけね。でも、そのあまりの盛況具合に、冒険者だけでなく王国軍の兵も行き来するようになるのは予想できていたかな?)


 心の内でこの作戦の立案者に問いかける。

 王国兵が出入りすれば、それを統率する王族の耳にも留まる。

 公正中立を誓ったのは自分だけであり、それ以外の王族はゼフィールが望むように動く。


 則ち、エクレアの敵だ。


「それでは、ボク達王族がそれを奪い去っても問題ないですね」


 シエムが冷然と呟き、木剣を手にした。


「さて、いっちょやりますか」と、三男のルーザも木剣で肩を伸ばしている。


「……正直、ルーザ兄上が団体戦に参戦するとは意外でした。腐っても王族ということですか?」

「失礼だな。オレもやる時にはやるよ。ゼフィールが所望するものを献上するのが、オレ達王族の務めだからね。それに、あれを見てよ」


 ルーザが指を差した先には、観客の女性客が多数いた。


「ここで活躍すれば、女の子達の注目が得られる。その中にはオレの運命の相手がいるかもしれないからね」

「うん。それでやる気を出すところが、ルーザらしくて良いと思う」

「成程。ゴミはゴミのままだったということですか」

「ありがとな、シエム」

「? 悪態を吐いただけです。特に礼を言われるようなことは言ってませんが」


 ルーザはシエムに一輪の薔薇を手渡し、寂しげな微笑を浮かべた。


「……だって、悪態を吐くぐらいオレを気にしてくれてるってことだろ……?」


 絶句しているシエムを他所に、「ちょっと挨拶してくるー!」とルーザは女性客の方へ駆けていった。

 ルーザは不真面目で異様にポジティブなところがある。それでいて顔と肩書きだけは一級品なので、その上辺だけのイケメンスマイルで数々の女性を落としてきたのであった。


「不快だ!」


 シエムが薔薇を握り潰した。


「まぁまぁ。ところでシエム、団体戦なら3人だよ。あとのひとりは空席にするつもり? まさか僕ではないよね?」

「フォール兄上を誘ったところで勝算があると?」

「僕の雑魚さを舐めないで」

「知ってます。フェイル兄上は所用があって来れませんでしたので、現地で手頃な者を誘おうと思います」


 シエムの視線が、アサヒ戦の最前列に並ぶバルハロク兵士長を見つけた。


「あ、シエム、ちょっと待ってあげた方が」

「バルハロク兵士長、話があります。今すぐここに来てください」

「……」

「聞こえないんですか? バルハロク兵士長」


 バルハロクは列から抜けて、シエムの前に跪いた。


「は! シエム殿下、お呼びでしょうか!」

「エクレアに団体戦を申し込もうと思います。アナタも参戦してください」

「承知しました!」


 淡々と団体戦を申し込みに行くシエム。

 その後ろで、フォールはバルハロクに「すまないね」と謝罪を口にした。


「もう少しでアサヒ君と戦えるところだったのに、タイミングの悪いところで呼び出してしまったね。かなりの時間並んでたんじゃない?」

「良いのです! 団体戦でアサヒを引き摺り出せば良いだけのことですから!」


 バルハロクはなんともないというように笑い声を上げる。しかし、その目は元いた箇所を悲しげに見つめ続けていた。



【団体戦】エクレア vs 王子ーズ

 先鋒戦 エイト  vs シエム

 中堅戦 ジオ   vs ルーザ

 大将戦 アサヒ  vs バルハロク


 




 

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