11話 ギルド戦開戦


 ギルド戦開戦当日、半数の冒険者ギルドがクエストを受註できず、仕事を求めて街中を走り回っていた。


 そんな中、エクレアの催しは異色であり、庶民の注目を浴びた。



『エクレア決闘祭!』

場所:エクレアギルド前、試合場

①アサヒ戦(1回3万G)

 アサヒに一本いれられたら勝利。制限時間は3分間。

②団体戦(1回10万G)

 3対3の先鋒、中堅、大将戦に分かれ、2勝した方の勝利。


賞金:

 参加者の支払い金を賞金として蓄積していき、①②のどちらかでも勝利した者に全額譲渡する。

 ギルド戦の間に勝者が出なかった場合、賞金はエクレアのものとなる。




 ジオはシバ、ベヒーモス、アジュと共に、①のアサヒ戦に並ぶ行列を唖然としながら見ていた。


「これは圧巻の光景だな……」

「以前からアサヒとの手合わせに憧れていた庶民は多かったワン。シバが散歩する度に聞こえてたワン」


 行列の横では、ブッチに取り押さえられて泣き叫ぶエイトがいた。

 順番を無視して割り込もうとしたところを、ブッチに引き摺り出されたのである。


「アサヒ団長が構ってくれないなら死んでやるぅぅぅ!」

「エイトが発狂してる……。わざわざ並ばなくても、アサヒならいつでも稽古つけてくれるのにね」

「それはジオだけワン」

「え?」

「特別扱いにも気づかないとは、ジオ氏はとんでもない果報者でござるな」


 むっとして足元を見るが、ベヒーモスはすでにいなく、風のように遠くへ走り去っているところであった。


「本当に、逃げ足の速い豚だ……」

「あの豚の足は団体戦でも引き分けを狙いたい時に使えそうだワン」

「え、ベヒーモスを団体戦に出すの?」


 その時、「バゴン!」と岩でも砕くような音が響き、折れた木剣が回転しながら飛んできた。

 観客に囲まれていて見えないが、向こうでアサヒが善戦しているらしい。

 アジュが心配げにその方向を見つめる。


「アサヒ団長さん、あの行列の人全員を相手にするんだよね? あんなにひとりで戦い続けて疲れないのかな。負けちゃったりとか……」

「「それは絶対にないから大丈夫」」


 ジオとシバの声が被り、アジュは「そ、そっかぁ、凄い人なんだね」と驚きながらも安心したようである。

 アサヒならば何千戦でも、どれだけの手練が来たとしても、怪我どころか疲れることもないと断言できる。敗北などもってのほかだ。


(アサヒの行列も途切れないし、これは今日だけで数百万Gいきそうだな。問題は……)


 考えるや否や、3人組の少年達が木剣を手に近づいてきた。


「エクレアさん、②の団体戦お願いします!」

「「お願いします!」」


 勢いよくお辞儀をする少年達。

 その後ろには腰に細剣を携えた礼装の男がいた。

 武闘派貴族の子供が団体戦の経験を積みに来た、といったところだろうか。

 シバが少年達をじっと観察する。


「相手は見習い以上の実力はすでに身につけているようだワン。先鋒に一際強い少年が来る気配がする」

「了解。それなら僕が先鋒戦を務めるよ」


 右手の固定を外し、木剣を両手で握る。


「ジオ、その手で戦うつもりワン?」

「ああ。爪が変形しているから持ちづらいけどね。大金払ってもらってるんだから、片手じゃ相手に失礼だろ」


 黒く変色している右手を前に、少年達は緊張した面持ちになるものの驚きはしない。

 右手が魔物化したとの情報は少しずつ広まってきているようだ。


「怖くないと言えば嘘になる。ただ戦うだけで魔物化が進まないか、この右手が人を襲わないか、とかね」

「ジオさんの右手は人を襲ったりなんかしないよ」


 アジュが言い切る。

 右手は研究の途中であり、人を襲わない確証はない。

 しかし、彼女がこうも厚く信頼してくれるならば、それに応えなければならない。


「ありがとう、アジュ。だから今は戦うんだ」


 ジオと少年は向かい合い、木剣を構えた。


「この右手が人を襲わないかは、僕がこのギルド戦で証明してみせる!」


先鋒戦 ジオ  ○

中堅戦 エイト ○

大将戦 アジュ - (不戦勝)

『団体戦勝者 エクレア』

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