6話 親友


 フォールに作戦を聞かれないように、ジオ達は場所を変えアサヒの団長室で話し合った。


 ジオ、シバ、アサヒの3名で考えてみたが、クエストを受注せずにギルド戦に優勝する方法は見つからなかった。


 前回のギルド戦では、団員数200人の冒険者ギルド『マシュマロ』が、ひと月で3000万Gを叩き出して優勝した。


 今回のギルド戦では新ルールが適用されるので、優勝するなら1日150万〜200万は稼ぐ必要がある。


 しかし、魔物の討伐ですらもクエストを横領したと捉えかねないこの状況では、下位のギルドに出来ることはほとんどない。


 足掻くことさえ許されない状況をつくりあげたフォールは、やはり悪魔の末裔の長兄で違いないらしい。


「俺達だけでは策は浮かばないか。なら次はディアの話を聞きに行くぞ」

「ディアちゃんに? あの子研究者でしょ。何で?」

「あいつは仮説思考と並列思考の天才だ。俺達では考えつかない策が見つかるかもしれん」

「なるほど?」


 シバは他の動物団員に相談するということで、ジオはアサヒに連れられディアの研究室へ向かった。



 ディアの研究室は表沙汰にできないため、エクレアの地下室に造ってある。

 アサヒの家から山のような研究設備を移し、薬剤も買い揃え、昨日から魔物化の研究が始まっていた。


「アサヒ、少し良い? ディアちゃんのところに行く前に、君に話しておきたいことがあるんだ」

「何だ?」


 研究室へ向かう階段で、アサヒを呼び止めた。


「もし僕が魔物に侵食されて仲間を手にかけそうになったら、その時はアサヒ、僕を斬ってでも止めてほしい」

「……」


  返事はない。


「ごめん、嫌な頼みであることはわかってる。でも、これはアジュにもエイトにもブッチにも任せられない。アサヒ、君だからこそ託したいんだ」

「ジオ、お前は俺に親友を手にかけろと言うのか?」

「!」

「悪いが断る。流石に俺もお前相手にそんな真似はしたくない。それに俺が約束したらお前は安心する。努力をしなくなる。お前の運命は俺ではない、お前が決めるものだ。死に物狂いで努力しろ。自分を手にかけろなんて寝言は死んでから言え」


 わかったか、とアサヒに額を小突かれる。

 そうだった。

 アサヒは昔から競い合う冒険者仲間であり、稽古をつけてくれる兄のようであり、そして憎まれ口を叩き合う親友だった。


「……わかったよ。死に物狂いで努力する。少し肩の力を抜こうと思っただけなのに、手厳しいな、僕の親友は。でも死んでからどうやって寝言を言うんだよ。アサヒじゃあるまいし」

「死ぬ予定もつもりもないから練習の仕様がないな」


 アサヒと談笑しながら階段を行く。

 まるで昔の頃に戻ったような、そんな懐かしさを感じた。


「あー、まだ額が痛む。アサヒ、小突く時はもう少し手加減してよ。額を突き抜けたらどうするんだ」

「俺はそこまで不器用では、あ」

「あ?」

「いや、あれは本人だと断定できない。ノーカンだ」

「え?」


 アサヒが額を見る度に、額がズキっと強く痛んだ。


 

 エクレアの地下、ディアの研究室にて。


「ジオさん、昨日今日と精液が未提出ですよ。出してください」


 木箱に入ったディアからの開口一番の一言で、アサヒが飲んでいたお茶を噴き出した。

 ディアからは毎日採血を受け、汗、尿、唾液等の体液を検体として提出するように言われている。


「て、提出できなくてすまない。でもこんな腕をしている状態じゃとてもそんな気分になれなくて」

「感情論は嫌いです。ジオさんの気分で実験が左右されては困ります。今日中に二日分提出するようにお願いします」

「う、うーん、善処する……」


 アサヒと死に物狂いで努力すると約束した手前、NOとは言えない。

 しかしながら、恥じらいも情もなく、男性事情を求めるディアもどうかと思う。

 アサヒはディアについて『人見知りだが、感情豊かで可愛げのあるヤツだ』と言っていたが、笑った顔ですらまだ見たことがない。


「資料は似ている物でひとまとめにして本棚へ……薬はアルファベット順にして棚に並べる……」


 その背景で、アジュが紙に書かれた通りに物を整理している。


 ディアが運ばれた器材の整理もせずに研究を始めてしまったため、おざなりになっていた片付けをアジュが手伝ってくれていた。


 片付けに集中するアジュと、人と関わらずに研究を進めたいディアは相性が良いようだ。

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