5話 新ルール
ギルド戦開始の1週間前、主催者フォールの名の元に新ルールは明かされた。
〜ルール〜
ギルド戦の期間中、クエストを受注する際には各ギルド集会所へ前日までに申請することとする。他ギルドと重複した場合は、前月のギルドランキングを適用し、よりランキングの高い冒険者ギルドを優先する。
尚、これはギルド間の同士討ちを回避する為の処置であり、他ギルドに対するクエストの横領、暴力行為を行った場合は厳罰の対象とする。
〜〜
そのルールを見たジオ達エクレアは騒然とした。
ランキング上位のギルドが優先となるならば、最下位が続くエクレアは上位を狙うどころかクエストを受注することさえも困難であったのだから。
その改正を行なった張本人、フォールは今エクレアの会議室でぐるぐる巻きの逆さ吊りにされている。
新ルールを発表した当日、何を思ったのかこの王子はノコノコと単身でエクレアにやってきたのである。
「怒らせちゃったかな?」
逆さの状態で太々しく笑うフォールを、ジオはシバ、アサヒ、エイトと共に囲っていた。
「逆に聞くけど怒ってないと思うワン? シバ達に捕まったこの状況で、何故未だにヘラヘラしていられるのか心底疑問だワン」
「だってギルドの中に入れたからさ」
「……」
どうやらフォールの奇行は最初からエクレアの内に侵入することが目的だったらしい。
思惑にはまったと絶句しているシバに代わり、今度はアサヒが口を開いた。
「フォール、あんたは主催者として公正中立を宣言していた。これは俺達が不利になるように不正を働いたように捉えられるが?」
「何を言っている。僕達の間では至極公正で当然の理だろう。成果を挙げる者はさらに上へ行き、成果を挙げられない者はどこまでも落ちていく。それが実力領フリューゲルの思想、『実力主義』だ。君は自分達が不利だと文句を言いたいようだけど、でもこれって君が一年もの間どことも知らない場所でのんびりしていたツケが回ってきただけではないのかな?」
「……」
フォールの正論にアサヒまで黙る。
不遜な態度をとる王子に、拳を鳴らしながらエイトが近づいた。
「よぉよぉ王子様よぉ。なんかこう難しい話してるみたいだけど、俺様にはよくわかんねぇよ。とりあえずアンタの態度がいけすかねぇからちょっと殴らしてくんね?」
「君がエイト君だね。言っとくけど僕はとても弱いよ。君がわかるように喩えると、僕の戦闘力は『葉っぱ3枚』程度かな。葉っぱ3枚なんか殴って、君は果たして楽しいのかな。それよりも腕立て伏せでもした方が有意義じゃないかい? 神になるなら時間は無駄にできないだろ?」
「おう! 腕立て伏せする! マッハでやってやるぜー!」
エイトが何故かその場で腕立て伏せを始める。
フォール、あっという間の三人斬りである。
「エイトを引き下がらせた!? フォール殿下ってこんなに凄いお方だったのか!」
「お褒めの言葉ありがとう。ところでジオ君」
「は、はい」
「僕の弟が失礼した。君達は実力領を体を張って守ってくれたのに、君とシバには苦い思いをさせたね。兄として直接謝罪したいと思っていたんだ」
「そんな。あれはフォール殿下でもどうしようもなかったことではないかと……」
言いかけたところではっとする。
自分の番かと警戒していたはずが、フォールの柔和さについ気を許しそうになっていた。
まるで心の真ん中にするりと入り込んでくるようである。
「お詫びに君の魔物化した腕について話せたら良かったんだけど、残念ながら僕はそれに関わっていなくてね。でも、君のその腕の魔物化については僕も考えていたんだ。そこで聞きたいんだけど、君は何を以って君を君たらしめるのかな?」
「え?」
「フォール、やめろ」
アサヒがフォールを制する。
「こいつは今誰よりも動揺している。主催者ならギルド戦の前に参加者を惑わすような行為はやめろ」
「ふむ。確かにこれ以上は公正から離れてしまうね。悪かったね、ジオ君。
ギルド戦については心配しなくてもこれ以上の改正はしないし、それぞれのギルドのやり方に口を挟むこともない。僕のことは歩くルールブックとでも思って気にしないで良いよ」
「え、待ってください。フォール殿下、さっきのはどういう……」
真意を尋ねようとしたところで、アサヒに背中を押された。
「作戦会議だ。フォールの前で話すことでもない。俺の部屋に行くぞ」
「あ、うん」
「おーい、僕はこのままー?」
ジオ達はフォールを放って会議室から出た。
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