4話 フォール
実力領フリューゲル王国、フォールの執務室にて。
フォールは次男フェイルより軍事会議の決議を聞いた。
「ギルド戦終了後にゼフィール率いる王国軍でしばらく信仰領に遠征ね。フェイル達も行くのかい?」
「ええ」
フェイルがパイプを吸いながら低い声で答える。
フェイルは長身に長髪、深紫の三角帽子にローブを愛用していて、遺伝の美貌もあり魔女さながらの容姿をしている。
「軍はどれくらい連れて行くの?」
「ほぼ総戦力よ」
「信仰領に降伏勧告や遠征の予告は?」
「無しね」
つまりは信仰領は実力領王国軍の予告なしの遠征を奇襲として受けることになる。
「南門を奇襲されたことに対する意趣返しというわけか。これはまたエグいことするなぁ」
「そりゃそうよぉ〜、神に祈ることしかできない連中にコケにされたままでは癪だものぉ〜。それにあの連中はゼフィールの貴重な
想像したのか、フェイルが嗜虐的な笑みを浮かべる。
フェイルはよく非力な"
ちなみに、動物の猫達については一緒にゴロゴロするくらい大好きで、痛ぶることはしない。
「フォールちゃん、それで国内の魔物の件についてはどうなっているのかしら?」
「それね」
机の上の山積みになっている資料から、印を付けておいた地図を引き出す。
「南部だけではなく実力領の至る地域で、グールとそれ以外の魔物の被害報告が多数発生しているね。目撃情報から分析すると、瘴気の魔物は森等の影になっているところから発生しているらしい。信仰領が国内に大量のグールを巻いたおかげで、マザークリスタルの加護がまた弱まったのかもしれないね」
「そう。どうするのが良いかしらね」
本当はマザークリスタルの欠片を魔物の発生源に配置するのが有効だが、実力領のマザークリスタルを大幅に削ることになる。
領土が縮小するようなことをゼフィールは是としない。
「収まるまで魔物を討伐して耐えるしかないね。ギルド戦が始まる前までは王国軍が主導、始まったら王国クエストにして冒険者ギルドに移行しようか。ギルド戦であれば冒険者ギルドは活発に請け負うし、王国軍も落ち着いて遠征に備えられる」
「それ良いじゃない。アタシからもゼフィール達に伝えておくわ」
「いつもすまないね、フェイル。僕の味方は君だけだよ」
「もうフォールちゃんったら、何言ってんのよ!」
フェイルの剛腕がブォンと顔の前を過ぎる。
「フォールちゃんには管轄の地域でトラブルが起きる度、何度も助けてもらったじゃないのよ! この程度当然のことよ!」
「僕に手が当たらないように気をつけてね。僕と君の間には約167倍の実力差があるので」
「それに、言わないだけでシエムちゃんもルーザちゃんもフォールちゃんのことはよく慕っているのよ。二人とも必ず力になってくれるわ」
「そっか。光栄だな」
フェイルと笑い合う。
(知ってる。そうなるように仕向けてきたからね。僕が未だに手懐け切れてないのはゼフィールくらいじゃないかな)
王族の長男として生まれ、幼い頃はそれなりの展望を持っていた。
王国のあり方を考え、帝王学、経営術、良質なコミュニケーション法等の学問だけでなく、国民の暮らしの実情を見て回り、懸命に国を背負う勉学に励んだ。
それが赫眼を持つゼフィールの誕生で全てが崩れた。
王位を剥奪され、戦闘力もない自分は何の発言力もなかった。それを押し付けられた大量の執務を粛々とこなし、弟達や重要人とのコミュニケーションを積み重ね、今ではかなりの人望を得ている。
「フォールちゃん、今日は少し機嫌が悪いのではなくて?」
話が終わったところで、フェイルに指摘される。
「気づいちゃった?」
「気づくわよ。だって普段と目が違うんだものぉ〜」
「それは気づかなかったな」
「フォールちゃんにもそういう時があるのね。情熱的で貪欲な色をしている良い目だわぁ……アタシは好きよ?」
フェイルは熱い眼差しで全身を見回すと、「今度ね」とウインクをして退室した。
ひとり残った執務室で、軽く息を吐く。
(やれやれ。少々近づき過ぎたかな。フェイルとは少し距離を取った方が良さそうだ。それにしても、気づかれているとはな……)
不機嫌である自覚はあった。だが、それを周囲に悟られるほど露にしていたとは思わなかった。
原因は明確。ゼフィールとアサヒの間をまんまと取り持たされたあの件が尾を引いている。
(僕って人を読むけど、自分を人に読まれるのは昔から受け付けられないんだよね。アサヒ君に助言した子はとんでもない人見知りさんなのかな。人の触れて良いところと触れてはならないところの判断もできないだなんて)
とはいえ、その未熟過ぎる手にハマったのは紛れもなく自分であるが。
「どれ、エクレアの未熟な策士さんに、僕からもちょっとした意趣返しをしてみようか」
机の棚から前回のギルド戦の記録を取り出す。
前回ギルド戦が行われたのは4年前。
冒険者ギルド間でクエストや素材を奪い合う同士討ちが多発し、ギルド集会所が収拾に苦慮したとある。
その記録を少しの間眺めて、紙にペンを走らせた。
「さて、この手にどのように応じる? 僕って狭量だな。まぁ仕方ないよね」
曲がりなりにも自分も
血は争えないということで。
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