18話 襲撃③

 ジオがエクレアに復帰した時のこと。

 エクレアにて。


 ルーシーは団長代理シバにお使いを頼まれた。


「ジオを遠目から監視してほしい?」

「ジオには復帰後は自由に動いてもらうワン。それでルーシーには毎回何のクエストに行ったか確認して、もし違和感があればサポートに回るようにしてほしいワン」


 シバは動物であるためか、人間にはわからないものを感じ取る力がある。この度も何か感じ取ったのだろう。


(しかし、事あるごとにジオの話ばかりだな。シバってジオのこと大好きだよね。何故本人の前では素直になれないのだろう)


 不器用な犬に同情する。

 ジオにはこれといった才能はないが人を惹きつける不思議なところがある。ルーシーとしても貴族出身である自分をしがらみなく『ルー』と呼び、気さくに接してくれる彼のことは昔から気に入っていた。


「君はジオが意識障害から覚醒した理由に、何者かの意図が含まれていると考えているのかい?」

「今の時点では何とも言えないワン」

「そうかい。わかったよ。皆にも伝えておくね」

「いや、これは要領の良いルーにだけ頼みたいことワン」


 要領が良い。それは買い被りすぎだ。力量に合う依頼を選んでいるだけで、クエストの失敗が少ないのもそれが理由だ。


 ジオの治療内容をひた隠しとする王都の病院。不自然に王国クエストを勧める王国直属のギルド集会所。

 ジオの周辺を探っていると、実力領フリューゲル一の有力者の影が見えてきた。



 ジオがグールを斬った時、グールが瘴気を放ちながら消えていく。いつのまにか地面のドロも消え、周囲の瘴気も薄れてきていた。


「はぁ、ようやく瘴気が晴れてきたな。後はグールを倒すだけだ」

「ジオ、あのさ」

「なに?」


「王国に、ゼフィール陛下に気をつけたまえよ」


 ゼフィールは実力領フリューゲルの王である。


 なんで、と振り返ったのと、ルーシーの細身な体が崩れるのは同時だった。


「ルー? どうした、ルー!」


 何度も体を揺するが、ルーシーからの反応はない。


 意識はなく、尋常ではない汗をかいている。

 剣を握っている手は灰色に変色しており、足首はすでに真っ黒に染まっていた。


「腐食症状ステージ4、肉体の壊死……? そんな、なんでッ!?」

「応援に来たぞ!」


 背後から増援の冒険者がやってきて、目の前のグールを倒していく。しかし、ジオには周りの状況は目に入らない。


 ルーシーが首元に隠したクリスタルを確認する。


「これ、クリスタルじゃない、ただの光る玩具じゃないか! なんで、なんでだよ、ルー!」


 冒険者ごっこのブースにあったクリスタルに似せた玩具を、ルーシーは身につけていただけだった。

 脱力するルーシーにポーション全てを流し込み、その体を背負った。

 体がゾッとする程に冷たい。


「ルー、ダメだ、絶対死ぬな! 絶対に死ぬなよ!」


 ジオは消耗しきった体に力を振り絞り全力で病院へと走った。ことは一刻を争う。

 腐食症状ステージ4の次はステージ5、意識障害、又は死であるのだから。

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