17話 襲撃②
「なんで
ヨタヨタとぎこちなく前屈みな二足歩行。
骨が浮き出るほどに痩せ、薄黒く不潔さのある体つき。
そして、獲物を食らう細く鋭い歯。
間違いなく、人間が瘴気に溶けた際に生まれる瘴気の魔物グール。
その異形の群れが瘴石の溶けた黒いドロから這い出てきていた。
アイリスが頭の上に乗るフェニックス(雀)に指示を叫ぶ。
「フェニックス、ロギムにいる護衛団に人々の退避を促すように伝えろ! その後はカタラーナまで飛び、南方ギルド集会所にクリスタルを持って増援をよこすように伝えてくれ!」
「で、でも、応援が来るまでの間、アイリスは、皆はどうするのかしら」
グールは人間の血肉に対する執着が強く、目の前の獲物を食い殺すまでどこまでも追跡する特性があった。それに魔物は濃い瘴気の中では不死身である。
であるのならば、人々を襲わせないために、瘴気をこれ以上広げさせないためにも、やることは決まっていた。
「僕らはここでグールの足止めをするよ」
「……わかったわ。皆、絶対無理しないでね〜!」
フェニックスは不安げであったが、堪えたような顔で飛んでいった。
瘴気に汚染されている中の戦闘で、人間に時間の猶予がないことはわかっているのだろう。
「すまないな、ジオ、ルーシー。護衛団の仕事に付き合わせてしまって」
「後で何か奢ってもらうしいいよ。それと二人とも、やばくなったら遠慮なく離脱しなよ」
「君に言われずともわかっているさ」
ルーシーが細剣を振るいグールの胸を鋭く突く。
アイリスが長槍を回転させ、銅や足へ打撃を与える。
ジオは食らいつこうとするグールの顎をファルシオンで両断した。
群れとはいえ噛む引っ掻く程度しかできないグールの単調な攻撃に、元は上位ギルドの三名が揃っているのであれば負けるはずはなかった。
しかし、環境が不味すぎた。
「ゲホッ、ゲホゲホゲホゲホッ!」
戦闘が始まり半刻程経った頃、アイリスが槍を杖代わりにしながら激しく咳き込む。
気管からはヒューヒューと絶えず笛の音が鳴り、重篤な呼吸障害が起きているのは明白であった。
「アイリス、君はもう限界だ。ここから離れるんだ」
「ゲホッ……ジオ、君達は何故平気なんだ……?」
「えと、それは……」
「ジオもボクもこんなこともあろうかと、クリスタルの首飾りを常に携帯するようにしているのさ。しばらくは問題ないから早く行きたまえよ」
ルーシーが首元からクリスタルを取り出しウインクする。
どこで手に入れたんだ、とジオは苦笑した。
「ゲホッ……そうだったのか。到着し次第増援を向かわせるから、それまでなんとか持ち堪えてくれよ」
アイリスがその場から離脱する。
直ぐにグール達に四方を囲まれたため、ルーシーと背中を合わせた。
「相変わらず要領がよろしいことで」
「そう褒めてくれるなよ。照れるじゃないかい」
--ア゛ー…、ア゛ー…。
グール達が悲しげな声をあげながらゆっくりと迫る。まるで瘴気に溶けた人々の無念が込められているようだ。
「はぁ、なかなか瘴気が晴れないな」
「ジオ、ひょっとしてもう体力の限界なのかい? 僕の背中くらいしっかり守ってもらわないと困るのだけれど」
「そっちこそ!」
その後しばらくの間、ルーシーと互いの背中を守りながら、不死身の敵を相手に戦い続けることとなった。
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