2話 ギルド戦の内容
別室で対信仰領の軍事会議があるようで、ゼフィールがフォールを除く王兄殿下らと王国軍幹部らを連れて退場した。
その際に王国軍兵士長バルハロクが肩をぶつけてきた。
ぶつかる瞬間に肩に力を入れてみたら、バルハロクは前に弾け飛び、舌打ちをしながら会場の出口へ向かっていった。
玉座の間の扉が閉まって数秒、会場内がどっと疲労の息を漏らした。
「勝手にぶつかってきて勝手に飛んでいってキレて、よくわからん奴だ」
「自分より小柄な君が1ミリも動かないんだよ。そりゃ舌打ちの1つや2つしたくもなるだろうね」
気絶者が担架で運ばれる中、フォールが近寄ってくる。
28歳と8つ歳上であるが、歳をとるごとに若返ってるのかと思うくらい清爽さが増していく。
「相変わらず軍事会議には呼ばれないんだな」
「僕の扱いなんて今更指摘することでもないでしょ。それに、実力で捩じ伏せたいゼフィールと策略で堕としたい僕とじゃ相入れないからね。そんなことよりも……」
フォールは怪訝な顔となって続ける。
「アサヒ君、さっきのは何? ゼフィールをあんなに挑発して。何ぽっくりするか気が気じゃなかったよ」
「あんたの気絶者の数え方特殊だな」
「至極妥当だよ。ゼフィールのあれ、心臓が悪い人は死ぬから。もう少し穏便に済ませる方法はなかったわけ?」
「俺だけではゼフィールは全く耳を傾けなかった。俺達が言い争えば、面倒見の良いあんたは出てこざるを得なくなる。あの場を収められるのはあんただけだ」
「……へぇ、ぼくを釣ったの? 君にしては強引、いや、理性的なやり方だね。君だけの考えじゃないんじゃない?」
「……」
返答はしない。フォールは内面を見抜く鋭い人物だ。余計な反応はこの男に情報を与えるだけである。
「ふーん、黙りか。頑固に育っちゃって。少年の頃は吹いたら飛んでいきそうなくらいふわふわしてたのに」
「人をたんぽぽの綿毛みたいに言うな」
「そろそろ紹介してよ。君を変えたその『きっかけ』をさ。ジオ君に預けた木箱の中でしょ? 会場が荒れる前に退場させてあげるなんて、余程大事にしてるんだね。あの木箱に収まるなら小さい女の子かな? 何で木箱に入ってるの? 容姿に秘密があるとか? お菓子は好き?」
この男は何も話さないだけでこれである。
「フォール、ジオ達のところへ行く前にギルド戦の内容を確認していきたい」
「全部正解ということか」
「……ギルド戦の内容を確認していきたい」
「いいよー! 僕も話したいと思ってたー!」
話題転換も悪手だった。
満足する答えが得られ、フォールがにこやかに応じる。
「ギルド戦の評価はメンバーがその期間に稼いだ資金の総額だ。資金を稼ぐ方法はクエストのみならない。大御所のギルドでは、余った素材や道具を売りに出しているしね。君の留守中、君達のとこのブッチがハンドメイドした雑貨を売ったり、シバが留守番ついでに通行人にもふらせて生活費の足しにしていたみたいだけど、それもありね」
「あいつらはそんなこともしていたのか……」
ギルドに戻ったらメンバーにご馳走してやろうと内心で誓う。
「それと、他のギルドもやる気を出すように、上位3ギルドにはそれなりの賞金を出させてもらうよ。全てのギルドが全力を出した上で優勝してもらわないと、公正ではないからね」
「上位はゼフィールの所有物でいいんじゃないか? 俺達は違うが」
「あははははは! そんなことをしたら、全てのギルドが全力で上位を回避する泥沼が始まるに決まってんじゃん! そんなもん誰が楽しいの? あははははは!」
ゼフィールの兄が腹を抱えて爆笑する。
「最後に、主催者としてエクレアのメンバーの増員を禁じよう。君は今のメンバーのまま上位になると宣言したからね」
「結構細いな」
「これでもかなり譲歩しているんだよ。この僕が主催者として公正中立を宣言してあげたんだから。感謝してよね」
「何故それが感謝することになるんだ?」
「僕は戦闘には向かないけど、策を講じるのは得意分野でね。性格上、相手の勝機の芽は完膚なきまでに摘み尽くさないと気が済まないんだ。僕が君達の敵なら、君達は這い上がることもできないかもね」
物騒なことを平然と言ってのける王子に引き気味でいると、フォールは妖艶に笑い、ここの王族らしい呪いの言葉で締めくくった。
「それでは"期待している"。冒険者ギルド
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