1話 アサヒとゼフィールの取決め
玉座の間にて。
アサヒはゼフィールと対峙していた。
会場内にいる、議会メンバー、王国軍幹部らが緊張の面持ちで見守っている。
「よく戻った、アサヒ。一年も行方をくらますとは、漸く死に絶えたものと取り違えてしまったではないか」
「ちょっと遠くでキャンプだ。そちらも存外に変わらず栄光が続いていたようで何より」
ゼフィールと形ばかりの挨拶を交わす。
無論、お互い目は笑っていない。
「エクレアの処分、いや、栄誉についてだったな。代理の犬の言った通りだ。辞退する意思は変わらない。俺の団員達は見ての通りアガリ症でな。俺達は一冒険者ギルドとして独自に動いた方が活きる」
「その発言は棄却する。現にエクレアは成績不振が続いている。我が手元に置く方が有用だ」
「俺が戻ったんだ。今のメンバーでも十分に上位を狙える」
「却下だ。これはしばらく動向を見送った上での判断である」
ゼフィールに応じる様子はない。
国王の発言は絶対で、その意思が変わらない限り状況は覆らない。
(余程の執着があるんだな。エクレアか、それとも個人に対するものなのか……)
フェニックスから、ジオの右腕が魔物化したことは聞いている。
それが関与している気がしてならないが、何にせよ、団員達の命がかかっているこの状況で引くわけにはいかない。
「話が通じないな。お前では俺以上に団員達の力を引き出すことなどできやしないと言っているんだ」
「結構な自信であるが、自分のギルドを放置したお前に言えることか? 弁解は聞かぬ。ここは私の顔を立ててもらおう」
平行線を辿る状況に、ふむ、とアサヒは顎に手をやった。
「成程。この王は他人に立ててもらわなければ己の面目すらも保てないのか」
「……あ?」
ゼフィールのこめかみにくっきりとした青筋が立ち、会場内でバタバタと卒倒者が出てくる。
魔力耐性がある故に自分は多少の威圧で済んでいるが、周囲には耐え難い程の重圧が感じられるようだ。
「嘆かわしきかな。これだから血気盛んな若人は……」
ため息まじりに金髪蒼眼のイケメンが間に入ってきた。
第一王子かつ、ゼフィールの兄フォールであった。
「アサヒ君、いくら対等とはいえ相手は王様だよ? 発言には気をつけたまえ。ゼフィールも赫眼で殺気を飛ばすのはやめなさい。僕含む会場の皆がゲロってもいいの?」
「何をしにきた、フォール」
「膠着状態になっていたから兄として手助けにきたんだよ。この後信仰領の処置と国内の魔物の対処についても話さないといけないんだから、時間かけてられないでしょ。対等の立場にある者の意見が対立した時は、議論を重ねて合意点を探すものだよ。お互い我を通そうとするのではなくてさ」
「……」
フォールの介入により、ゼフィールが無言で聞く姿勢を見せる。
「それでアサヒ君。君はつまるところ、成績を挽回するチャンスが欲しいと言っているのかな?」
「ああ。ひと月ほしい。それだけあればランキング上位に戻り、一冒険者ギルドとしての有用性を証明してみせる。それができなかった時には団員達も潔く国営ギルドとなることを受け入れるだろう。それと」
予め決めていた言葉を言う時、フォールが「げっ」といった顔つきになった。
「ここまで譲歩させた上で実力を示せなければ、最強の名折れだ。俺は責任を取って実力領最強の剣士の称号を返却し、ゼフィールへ絶対服従を誓おう」
会場が大きくざわつき、ゼフィールが高笑いを上げた。
「ははははっ! アサヒ、お前が私の犬に成り下がると言うのか! 大胆に出たものだ!」
「そのかわり俺達が実力を示せたなら、ゼフィール、俺の団員に手は出さないでもらおうか!」
言って鋭く睨むと、ゼフィールは「良かろう」と不敵に応じた。
「お前達が良好な成績を残す限り、私から手出しすることはないと約束しよう」
得心がいった様子を見て、フォールは肩をすくめた。
「やれやれ、合意点は見つかったね。ゼフィール、エクレアが実力を示すやり方はどうしようか?」
「私は信仰領との戦事がある。フォール、お前に一任とする」
「うーん、そうだねぇ」とフォールが束の間思案する。
「それでは2週間後、30日間の『ギルド戦』を開催しよう。上位と言わず、それに優勝してみせなさい。それができたら国営は見送るということで。できなかった場合は、先程の条件を適応する。ゼフィール、アサヒ君、それでいいね?」
「構わん」
「ああ」
「では二人とも、剣の誓約を。僕はギルド戦の主催者になる立場だから、この場で公正中立を誓わせてもらうよ」
三人は剣を取り出し、自身の写し身に誓約を立てた。
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