20話 南門の戦い①
実力領フリューゲル南門前。
南門の砦を破壊した後、教主マディエスは実力領の内側へと『グール砲』を撃ち込んでいるところであった。
この砲弾は火薬とグール入り
着弾と同時に爆発することで中の瘴石が壊れ、広がったドロから瘴気の魔物グールが大量に生まれる。だから『グール砲』。
長城や門を壊していないため、外側にいるマディエス達には中の様子はわからない。
だが、実力領の中が瘴気に溢れていく様子を見るに、うまいことグール砲は機能することができているようだ。
(砦を壊したきり敵の姿は見えない。今の内に現状を確認しておきたいですね)
視線を察知したのだろう。大砲隊を間近で見守っていたナタリが、豊満な胸を上下させながら小走りしてくる。
教主の男はその映像を脳に深く刻み込んだ。
「教主様、何かございましか?」
「埋まりたい」
「は……?」
「何でもありません。グール砲の数は残りどれほどですか?」
「あと半数といったところでございましょうか。なにしろ大砲の扱いに慣れていなくて。時間がかかり申し訳ございません」
大砲隊が5台の大砲を2人ペアで操作している。砲弾の装填や角度調整などでごたついており、お世辞にも手際が良いとは言えない。
「良いのですよ。焦って狙いを外してしまっては手間が増えます。ゆっくりで構いません」
「恐れ入ります。グール砲を全て撃ち込んだ後はどう致しましょうか」
そうですね、とマディエスは300人の信者達をざっと見渡す。
実力領へ直接打撃を与えるために、信仰領の前にいる3万人の信者達とは別に、300人の小部隊を編成して瘴気の領域を通ってきた。
魔物との戦闘は極力避けて来たものの、信者達の顔には瘴気の森を越えてきた疲労が伺えた。
「これ以上の深入りは不要でしょう。グール砲を全て撃ち込んだら一度撤退します。くれぐれも周囲の警戒を怠らないようにしてください」
「畏まりした。伝えて参ります」
信者達の元へ指示を伝えに行くナタリの後ろ姿を目で追う。
彼女はこの危険が伴う小部隊へも、「少しでもお役に立てたら」と自分から志願してくれた。
そしてこの働きよう。
どこからどう見ても優秀な副官だと思う。
だが、大聖堂で働いている間、統制された平和が続く信仰領の内部では、実戦経験はほとんど積むことができないはず。
にも関わらず、彼女は油断させたとはいえ、実力領の男二人を一片に片付ける程の実力を持っている。
(……やめましょう。ナタリは聖女ですよ。自分に付き従ってくれていた副官を疑うなんて、私も疲れているようですね)
疑念を振り払い、気を変えて先々について考えることにする。
今回は時間がなかった分、最低限の戦闘準備しか整えられなかったが、それでも大陸一の実力を誇る実力領相手にここまでの打撃を与えられたのなら、信者達の士気にもつながることだろう。
(次回は数倍の兵士と瘴石を用意できそうですね。その間に国内のグール達で実力領がどれほど弱るか楽しみです)
治安が悪くなり衰弱していく街を想像し、教主はクツクツと笑った。
突然、足元に小さな揺れが起こり始める。
「……む、地震でしょうか」
小さいながらも地鳴りを伴う、不思議な揺れであった。
「変わった地震ですね」
「教主様、違いますわ! 何かが地下から近づいてきているのでございます!」
「何ですって!?」
そうこうしている内に揺れは急激に加速していく。
正体不明の生物の接近に、信者達にもざわめきが広がっていった。
「落ち着きなさい! バラバラに散り、地面からの攻撃に備えるのです!」
教主の指示が行き届く前に、その生物は姿を現し、周りにいた信者達諸共、大砲1台を高く突き飛ばした。
ーーギエエエエエエエエ!
「ぐ、大砲がやられた! 何なんです、あれは!?」
雄叫びをあげながら地面から飛び出てきた生物は、ウーパールーパーに似た巨大な化け物であった。
◆
ジオ達はリヴァイアタンに乗り、アジュとエイトはクリスタルの首飾りを身につけることで、国の地下に広がる瘴気のダンジョンを瘴気の影響を受けずに突き進んできた。
地面に伝わる大砲の振動をバハムートが感知することで、位置を正しく知り、小部隊へ不意打ちを仕掛けることに成功したのである。
◆
「おい、そこのエロ教主! お前がトップだったよなぁ!」
緑の巨大生物が飛び出した時、乗っていた3人の人間の内、青髪の少年が巨大生物の頭を踏み台にし、「よっ!」とマディエスの方へ跳躍してきた。
「あなたは、いつぞやのわいせつ少年!」
「あの時は世話になったな! こっからは史上最強の神になる男、この俺様エイト様のエイト様によるエイト様のためのターンだあああ!」
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