10話 偵察終了
実力領フリューゲル、カタラーナの病院にて。
腐食症状ステージ2の浄化治療が終わり、退院の日。
冒険者見習いの少女アジュは、早朝に目を覚ました。
「あふぁ?」
謎の言葉と共に起き、ぼけーと陽の光を眺める。
程なくして、退院の日に迎えに来る、と言った青年との約束を思い出し、勢いよく顔を枕に埋めた。
(そ、そうだ、今日は退院だ! ジオさんが迎えに来てくれる日だ……!)
昨夜は楽しみで楽しみでドキドキして仕方がなくて、その感情が突如くるっと反転し、何かと忙しいジオが本当に自分なんかを迎えに来てくれるのだろうかと、不安、焦り、緊張が渦を撒き、どうしようもない程に落ち着かず、とりあえず横になるだけ横になってみた。
そして、寝たらしい。
(ふぅぅ、また緊張してきた。ジオさん、本当に私なんかを迎えに来てくれるのかな。う〜、ドキドキする〜。と、とりあえず、今のうちに洗顔してお化粧しとこう。ジオさんがいつ来ても良いように……あれ?)
洗面用具を取り出そうと棚を見た時、
ベッド横の椅子、そこにもたれかかっているジオを見つける。
「へ」
ジオ。ジオである。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアジジジジジオさんいつからそこにーー!?? いるならいるって言ってほしいよー! あ、私、今すっぴん。いやーっ! 見ないでーっ!」
わちゃわちゃしながら布団の中に隠れるも、反応はない。恐る恐る覗いてみると、ジオが寝息を立てていることに気づく。
「な、なんだ。ジオさん寝てたんだね……良かった……のかな?」
布団から抜け出し、隙ありと憧れの青年を凝視する。
このように、ジオの昏睡している頃、お見舞いが許されたカタラーナの病院にて一ヶ月の間、アジュは病院に毎日通っては青年の寝顔を好きなだけ眺めて過ごしていたのである。
「ふふ、ジオさんの寝顔、久しぶり。相変わらずかっこいいなぁ。でも、ジオさん、少し痩せた? あれ、ちょっとどころじゃない。かなり痩せてる! どうして!?」
ジオを日々見つめていたアジュにはわかる。顎、鎖骨の窪み、頬のこけ具合から3kgは痩せてしまっていた。
整った顔も目の下のクマが目立ち、血色の悪い色をしている。普段の装束とは異なる修道服を身につけており、その服もボロボロで泥だらけであった。
「ジオさんがこんなに痩せて!? ジオさんがこんなにやつれて……! どうして、どうしてこんなことに!?」
直ぐに、ジオが自分がいない間に過酷な任務を請け負い、その上で自分との約束も守ってくれたのだと気づいた。
「……ジオさんらしいなぁ。皆に頼りにされて。それに応えようと最大限に努力して。でも、無茶しちゃだめだよっ……」
手を伸ばし、冷たい頬に触れる。余程疲れてるのか起きる気配はない。
「自分のことももっと大事にしてあげてっ……任務も私との約束もほっぽり出して良いんだよっ……ジオさんが苦しいのは辛いよっ……ジオさんが傷つくのは嫌だよっ……!」
アジュは青年を抱きしめ、しばらく泣いていた。
ジオと共に病院に駆け込んだ少年エイトは、速やかにクリスタルの浄化治療を受けられたことで、後遺症のないギリギリのライン、腐食症状ステージ3で済ませることができた。
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