7話 審判の儀③
「すげー! ジオ先輩の波動すっげー! あれだけの人を一瞬で蹴散らしたぜー!」
エイトから全力で尊敬の眼差しを向けられている横で、ジオは罰の悪い顔で俯いていた。
作戦の発案者バハムートに向かって呟く。
「……流石に一万人もの信者達に対して、やり過ぎじゃない?」
「知ったことか。お前の命に替えられるものではない。あの連中は一度胃腸を洗浄してやった方が健全だ。そんなことよりも、活路が開けた今の内に脱出するのが先であろう」
「……後が怖いな。エイト、行こう」
エイトと共に逃げようとした時、教主の男マディエスが目の前に立ち塞がった。
「こんなことをしておいて、このまま帰れるとお思いですか?」
マディエスが口を拭いながら憎らしげに睨んでくる。すでに懺悔の丘に向かって一度吐いていたが、まだすっきりとしていない顔色をしていた。
「正直、なかなかなことをしでかした自覚はある。でも、薬で人々を管理して、こんな反吐が出そうな儀式を常習化するなんて、僕からしたら君達の方が腐った真似をしてると思うけどね」
「理解できないのは当然です。あなた方が実力主義を謳うように、我々にも独自のやり方があるのですから。これまでにどれだけの紆余曲折があったことか……それなのに、神聖な儀式を邪魔し、挙句の果てに国のために尽くしてきた信者に対しこのような仕打ちッ……! この国の事情も知らない余所者に、口を挟む資格はないはずだ!」
「……それは……」
「それは違うぜ。お前らの事情は知らんけどな」
言葉に詰まった時、それをはっきりと否定したのは、青髪の少年エイトであった。
「この世界は俺様を中心にできている。俺様がなんとなく良いと思ったら善だし、俺様がなんとなく悪いと思ったら悪なんだ」
エイトは唖然としている教主とジオを全く顧みずに、自分勝手に
他所の事情など関係ない。自分の主義主張こそが全て。
それが至高の神を目指す少年エイトなのである。
肩をすくめながら、教主の副官ナタリが前に出てくる。
地獄絵図が拡がる中、ナタリは戻すことなく平然としていた唯一の人物であった。
「教主様。これ以上の会話は不要でございますわ。この者達を大聖堂に入れてしまったのはわたくしの不手際によるもの。責任を持って始末をつけます」
エイトが「へぇ」といやらしい笑みを浮かべながら、女の体を舐め回すように見た。
「ねぇちゃん、随分良い体してんじゃねぇの。あんたが俺様を楽しませてくれるってのかぁ?」
「そう言うあなたはわたくしを満足させることができるのでございますか? いかにもお子様というように見えますが。あ、女を傷つけたくないとか、そんな手ぬるいことは言わないでくださいませ。わたくし、痛いのは大好物なんですの♡」
蒸気した顔で舌舐めずりをするナタリ。
丸腰の美人と二刀流のゲス顔の少年。
どちらが悪者なのかわからなくなる絵面である。
「少々邪魔でございますわね。失礼致しますわ」
ナタリは
タイトなスカートが左右に開かれていき、白くむちっとした
「紐パンキタアアアアアアア!!」
「聖女が黒い下着ですと……!? おお、ナタリ、君はなんと罪深いんだッ!」
エイトが鼻血を出しながら歓呼し、教主がぐっと拳を握る。
ナタリはその間に右腿に隠していた暗器のナイフを取り出し、エイトの方へと駆けていた。
巨乳の女性に耐性のあるジオは、その一環を落ち着いて見ていた。
「エイト、気をつけろ! 攻撃を仕掛けられてるぞ!」
「ぬおおお!」
エイトは凄まじい反射神経で屈み、振るわれたナイフを避ける。そして、眼前に豊満な胸があるのを目視すると、本能のままぱふんと顔を埋めた。
「うおおおお! さいこおおおおおお!」
唸るエイト。
にっこりと優しく笑ったナタリは、エイトの腕を掴み、こなれた所作で懺悔の丘へと投げ飛ばした。
「ごちしたあぁぁぁ」と、少年は地獄行きの急斜面を満悦な笑みで滑り落ちていった。
「エイト!? 馬鹿、何やってんだよ! 直ぐに助ける! あぐ!?」
急に訪れた打撃に視界が眩む。
ナタリに、足を水平に突き出し踵で蹴る技、
急斜面のギリギリで受け身を取り立ち上がろうとするも、喉元に剣が突きつけられる。
先程の動作の中で、エイトから片方の剣を奪っていたらしい。
「……やるね。随分戦闘に慣れてるみたいじゃない。信仰領にも君程の実力者がいたとは、驚きだ」
「お褒め頂き光栄ですわ、実力領のジオ」
眼前で際どく左下腿を突き出しながら、ナタリが狡猾に笑う。
「ジオ、あなたに最後のチャンスを差し上げましょう。そこに落ちていった仲間を見捨て、今一度ヴァルハラの神への忠誠を誓ってくださいませ。そうすれば、あなたの命だけでも助けると約束いたしますわ」
「悪いけど、これ以上神に尽くすつもりはない。僕まで吐きそうだ」
そう言うと、ジオは懺悔の丘を滑り、自分から瘴気の漂う空間へと落ちていった。
◆
ナタリは懺悔の丘の淵でそれを眺めた。
教主マディエスが鼻を押さえながら近寄ってくる。
「……教主様、鼻血が……大丈夫でございますか?」
「ええ、全く、全然、大したことはありませんよ。それよりもナタリ、君が無事で何よりです。あの豚共に救いは不要でしょう。信者達を呼び戻し、懺悔の丘を閉ざすとしましょう」
「畏まりました」
教主の後に続く中、ナタリはもう一度懺悔の丘を振り返った。
上がってくる様子はない。
「ジオ、あなたとなら本当の仲間になれると思いましたのに……残念ですわ……」
女はつまらなさそうにため息を吐き、その場を去っていった。
⭐︎ナタリのイメージです。
https://kakuyomu.jp/users/morisuke77/news/16817330655514113861
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