16話 フクロウに名前をつける
アサヒ、19歳。
瘴気の森、2日目の夜。
赤いクリスタルがある地点へ向かう道中、飲水と食糧が少なくなったため、アサヒ達はフクロウが勧める水辺に立ち寄ることにした。
フクロウが案内したのは青白く光る丸池であった。
「ココ、マブシイ。デモ、サカナイル」
神秘的な光景に、ディアが「わあ!」と興奮し走っていく。
「すごい! なんて澄んで綺麗な池なのでしょう!」
「ディア、安全性を確認していないのに飛びつくな。後で説教だ」
「え゛」
絶望の表情で振り向くディア。
「ダイジョウブ。ココ、マモノコナイ。イケノソコ、ミレバワカル」
「池の底?」
池を覗いてみると、規模の割に水深が深く、底にはそれなりの大きさの中型クリスタルが生えていた。
「成程。中型クリスタルが池の底に生えているから、池全体が光り輝いて見えるわけか。これだけ光っているのならここで休むこともできそうだな。しかし、他と比べて中型クリスタルが大きいのは何故だ?」
「アノクリスタル、イケノナカダカラ、カレニミツカラズニソダッタ」
「彼に見つからずに育った? それはどういう意味だ?」
「アサヒさん見てください! 魚がいっぱい泳いでいますよ! 捕まえて食べましょう!」
池の魚はヒレがやけに発達しており、水中を俊敏に泳いでいる。
魔物が寄らないために生き残ることができ、クリスタルの影響か進化しているようだ。
「ココノサカナ、ハヤスギ。ジブン、ツカマエラレナイ」
「どれだけ速かろうと俺には関係ない」
アサヒはそこら辺にあった石を一つ手に取ると、綺麗なフォームで振りかぶり、池に向かって投石した。
ゴッパアアアアアン!!!
池の真ん中で衝撃波が爆発する。
水飛沫と共に舞い上がる池の魚達。
水飛沫が収まった頃、池と周囲には気絶した魚がたくさん落ちていた。
「コレガ……ニンゲンナノカ……?」
「一応人間だ。残念ながらまだ人間扱いされたことはないがな」
恒例の台詞に対し、恒例の台詞をお返しする。
投石で大量の魚を手に入れた。
アサヒは魚の内蔵を取った後、串を打ち、魚を焚き火の前でじっくりと焼いていた。
「「……」」
焚き火を挟んだ反対側では、フクロウがディアを至近距離で見つめている。
ディアもまた人見知り故にどうしたら良いのかわからず、焚き火を見つめたまま硬直していた。
「「……」」
膠着状態が続く。
「〜〜〜っ」
先に限界を迎えたのはディアの方であった。
「あ、あの……フクロウさん……わたしに何か……?」
「キミ、ソノメ、ドシタ? クリスタルノヒカリ、ミエテナイ?」
「わたしの目ですか……? それは、えと……」
ディアはちらっとアサヒを気にする。
「……4歳の時に、未発達な
「ソウ」
「……」
「ところで、フクロウさんはどうして中型クリスタルの光が平気なのですか?」
「マモノ、クリスタルノヒカリキライ。ジブン、コウトウダケド、ヨワイ。マモノニミツカッタラ、クワレル。ダカラ、イヤダケド、クリスタルノトコロ、カクレテタ。ソシタラ、ナレタ」
「そうでしたか……。人間も動物もいなくなったこの世界では、魔物は弱い魔物を食べるのですね……」
「ジブン、スミカデ、ショウキノドロカラ、マモノツクレナイカ、タメシテタ。イッショニスゴスゲボク、デキタラホシカッタ。ソシタラ、キミラ、ショウカンサレタ」
「一緒に過ごす下僕が欲しかった?」
ディアがきょとんとした顔でフクロウを見た。
「ひょっとして寂しいのですか?」
「……チガウ。ジブン、コウキ。サミシイナンテオモワナイ。タダ、スコシノアイダ、ダレカト『カイワ』トイウノヲ、シテミタカッタ。ソレダケ」
瘴気の世界で命を受けた誰よりも弱い魔物。
同族の魔物を避けて、苦手であるはずのクリスタルに縋らなければ生きることができない。
無論、生まれてから一度もその隣には誰もいなかったのだ。
ディアはそんなフクロウをしばらく見つめた後、意を決して口を開いた。
「ペルセウス18号。ペルセウス18号はどうですか?」
「?」
「あなたの名前なのです。わたし達は元の時間に帰らなければいけないけど、一緒に行動している間は名前で呼び合いませんか?」
「ナゼ?」
「名前で呼び合うのは会話の初歩なのだそうです。あなたはわたしと話したかっただけなのに、わたしは怖がってばかりで……すみませんでした。ペルセウス18号もわたしのことはディアと呼んで話しかけてください」
フクロウが首を傾げる。
「ディア。ペルセウスッテ、ナニ?」
「ペルセウスは星座の名前です。今は瘴気で見えないのですが、瘴気に覆われる前の夜空では金銀に輝くたくさんの星を見ることができたそうです。人々はその星々を結びつけては星座の名前をつけたりしていたのだそうですよ」
「何故、ソレヲジブンニ?」
「あなたはこの瘴気に覆われた世界でひとりでも生きて輝いている。まるで、夜空に咲く星みたいだなと思いまして」
「ジブンハペルセウス……夜空に咲く星……」
ペルセウスは感慨深そうに、瘴気で真っ暗な夜空を見上げた。
「それでお前は18番目のペルセウスということだ」
アサヒは焼き上がった魚を木の皿によそってディアに手渡した。
「わあ、香ばしくて美味しそう! アサヒさん、ありがとうございます!」
「18……番目……?」
「ああ。ディアは飼った鳥にペルセウスと名付ける癖がある。実験に使う鳥な。まぁ、鈍臭いから実験の途中でほとんどに逃げられてしまっているわけだが」
焼き魚を美味しそうに頬張るディアを、ペルセウス18号は目と口をかっぴらいて凝視する。
アサヒはペルセウスの前に刻んだ魚を置くと、もう一度告げるのだった。
「おめでとう。お前は18羽目の
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