14話 フクロウを仲間にする


「以上、多少強引ですが、今までの情報から組み立てた仮説でした。わたし達があの水たまりにより未来にきた、という経験的事実を基に、それを辿れば同一の現象が起き、元いた時間に帰れるのではないかと考えます。論証するには些か根拠が足りないのですが、いかがでしょう?」

「ノるに決まっているだろう。お前が本気で考えた時の内容は大体当たる。経験上な」


 ディアが嬉しそうに「はい」と頷く。


「それでは、わたし達がこれからやることを整理します。まずは『浄化の属性を持つ赤いクリスタルを見つけること』ですね。これを見つけたら、フクロウさんに瘴気のドロを生成してもらって、そのドロを赤いクリスタルで浄化すれば入口ができます。後はアサヒさんのセンス頼りです」

「時を操る魔力を制御して過去に戻る、か。やったことはないが、まぁできるだろう」

「ショテカラ、ジシンマンマンデクサ」

「……どうやらお前はいちいち突っかからなければ気が済まないらしいな」


 アサヒがゴキンと指を鳴らすと、フクロウはサッと明後日の方向へ顔を背けた。


「それで、アサヒさん。あの赤いクリスタルはどういうところに生成されていたのですか?」

「確か10キロ地点くらいの濃い瘴気が漂う荒地の地帯だったな。遠目でも光っているのがわかったから、クリスタルの首飾りをはずして、息を止めて拾いに行ったのを覚えている」


 アサヒは赤いクリスタルを拾った時のことを思い出しながら答える。

 拾いに行った時、濃い瘴気の中であっても赤いクリスタルは煌々と輝いていた。

 瘴気のドロも一瞬で無害化させたところを考えると、マザークリスタルとは別種の強い浄化の作用があるように思える。


「うーん……では、だいぶ危険そうですが、濃い瘴気の地帯を探すのが妥当そうですね。見つかるかな……」

「アカイクリスタル、アルトコ、シッテル」

「そうですね……赤いクリスタルがあるところ……」


 ディアがフクロウを二度見する。


「え、知っているのですか?」

「シッテル。ショウキノコイトコロダッタ」

「フクロウさんすごいのです! もう見つけてくれていたなんて! これで無闇に歩き回らずに済みますね!」

「オシエテモイイ。タダ、ジョウケンアル」

「……条件だと? 何だそれは」


 不穏な空気を感じてアサヒが問うと、フクロウはにんまりと笑い、


「ニンゲンノニク、タベタイ」


 と、はっきりと言い放った。


「え……? 人間の肉……ですか……?」

「ニンゲンノニク、ゴクジョウ。ゾンブンニタベタイ。ソレヲクレルナラ、イカナルキョウリョクモオシマナイ」

「魔物らしい取り引きというわけか。俺の腕で良いのなら応じよう」

「ダメです、アサヒさん! んん!?」


 この森を無事攻略したいのなら、現地の魔物を仲間にする以上に良い方法はない。


 止めようと前に出たディアの顔を右手で押さえ、袖を口で引いて左腕をフクロウに晒け出す。

 血管が浮き出る固く締まった腕を前に、フクロウが舌舐めずりをした。


「ほら、好きにしろ」

「んー! んー!」

「ジブン、スコシデマンゾクスルホド、ヤスクナイ」


 フクロウが腕に停まり、湾曲したくちばしで肉に食らいついた。


 アサヒの生命力いっぱいの超カロリーが炸裂する。


「ヨシ。アンナイスル」

「まだ皮一口しか食べてないぞ。やっすい鳥だな」

「カロリーバクダンハダマル!!」


 ディアを解放すると、すぐに左腕を掴み返され、怪我がないかじっと観察された。


「……」

「見た通り出血もない。皮が少し剥けただけだ。何ともない」

「他に言うこと、あるのではないですか?」

「……悪かった」


 涙を浮かべた目で睨まれると弱い。

 素直に謝罪を口にする。




 瘴気の魔物フクロウが皮一枚と引き換えに、道を案内してくれるようになった。


 方向としては、実力領、信仰領、学術領の中間地点へ向かっているようである。


「現地の仲間ができて、一気に心強くなりましたね」

「ハーレム、ハーレム! モットヨロコンデクレテモイインダヨ! ま、オスだけどね」

「口を閉じろ。焼き鳥にすんぞ」


 以降、アサヒは鍋を被ったディアを肩車をしつつ、魔物のフクロウを腕に乗せて歩くという、伝説級な恰好で瘴気の森を進むこととなる。

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