10話 王国クエスト④
「ジオさん、これ多分ウーパールーパーだよ。前飼ってたもん。餌あげ過ぎて死んじゃったけど」
「アジュは何を言っているんだ! ウーパールーパーがこんなに凶暴な訳がないだろう!」
「ジオ、アジュちゃん、そっちに行ったよ! 避けたまえ!」
アジュにツッコミを入れていると、緑の魔物が加速し、その巨体で突進を仕掛けてきた。
ジオは横に跳躍しその攻撃をかわす。
魔物はダンジョンの土壁へ潜り姿を消すも、次の瞬間別の壁から現れ突進してくる。魔物の突進には壁を粉砕する威力があり、壁の間に挟まれでもしたらペシャンコにされかねない。
魔物が執拗に付け狙ってくるため、ダンジョンの壁が穴だらけとなっていった。
「しつこいな! 早く脱出したいというのに……!」
「ジオ、この魔物は使えるかもしれない。作戦があるのだけれどいいかい?」
ルーシーが周囲に警戒の目を向けながら声をかけてきた。
「どんな?」
「見たまえ。この魔物が通った穴が通路のように残っているだろう。ここらの地面は硬く安定しているようだ。この魔物を上に誘導できれば、上に向かう通路ができて脱出をかなりショートカットできるかもしれない。どうだろう」
「良いね。それでどうやって上に誘導する?」
「……そこは君が努力したまえよ」
「方法が浮かばないならそう言ってくれる!?」
考えが浮かばず、皆で魔物からの攻撃を避け続ける。すると、急に攻撃が止みあたりが静まりかえった。
「気配が消えた。去ったかな。うわ!?」
気が緩んだ隙を突くように、ジオの真下の地面を魔物が勢いよく突き破った。
ジオは足場を失い、かわすこともできずに頭で突き飛ばされた。
「うっ」
地面に背中を強打し、息が詰まる。
魔物は押し潰すつもりなのかその巨体で覆い被さってきた。
「ジオさんから離れて!」
アジュが瞬時に弓を構え矢を放つ。矢は魔物の顔面に生える突起物を一つ分断した。
魔物は矢の攻撃に怯んだようだった。
「今だ……!」
ジオはその間に立ち上がり、魔物を操作しようと背中に飛び乗った。
案外体表が
突起物を下に引き続けているせいか、魔物は顔が上方に向き、土の中に潜った後、斜め上へ向かって突き進んでいく。
この調子で上がれば地上へ脱出できるだろう。しかし、
(……めっちゃくちゃ痛いッッッ!)
魔物が穴を掘り進めていくことで、頭や背中に崩れる土砂があたり手を離しそうになる。
だが、ここで手を離してはダンジョンを今すぐに脱出する術はない。持てる限りの力で魔物の突起物を握り込んだ。
ひとしきり耐えていると、突然の光に目が眩む。ダンジョンの外、地上に出られたのである。
「外……やった……」
突起物から手を離し、魔物の背中から崩れ落ちる。限界が近かったようで手にほとんど力が入らなかった。
--ギュエー!
魔物は光が嫌いなのか、すぐに穴に潜り姿を消した。
ジオが来た穴は、まるでダンジョンの入口がもう一つできたかのように開かれている。
「ひょっとして、入口に使った洞穴もあの魔物が作ったものだったりするんだろうか。いや、考えている暇はないな。皆を呼びに行こう」
ジオはルーシー達を呼ぼうと穴へ戻った。
その先で二人に合流する。
ルーシーが抱えていたのは、蒼白な顔で細い息をするアジュであった。
「ヒュー……ヒュー……」
「アジュ!? どうしたの!?」
「あの戦闘でクリスタルの光が消えてしまってね。アジュちゃんは激しく咳き込んで瘴気をたくさん吸い込んでしまったのだよ……ゲホッ」
ルーシーも一度咳き込むが、その後は咳を堪えゆっくりと息をする。瘴気の吸入をできるだけ抑える呼吸法である。アジュは見習いであるため、それができなかったようだ。
アジュは呼吸不全が出ているだけではなく、意識まで失っている。別の症状が併発していてもおかしくはない。
「街へ戻ろう! 早く治療を受けないと後遺症が残るかも!」
「ゴホッ、ジオ、君は平気なのだね」
「何が!」
「君のクリスタルも消えているよ」
「え」
首元を見ると確かにクリスタルの首飾りが輝きを失っている。しかし、自分はどんなに瘴気を吸入してもステージ1の呼吸障害すら出現する様子はない。
「ゲホ、ジオ、君はひょっとして瘴気を克服しているのかい?」
「……わからない」
「とりあえず今は街へ急ぐとしようか」
「ああ、そうだね」
瘴気を克服した人間など聞いたことがない。何故自分が、自分だけが瘴気の影響を受けないのか。不穏なざわめきを感じながら、ジオは街へ戻ったのだった。
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