4話 クエスト 薬草採取②
ジオはアジュとベヒーモス(豚)と共に瘴気の魔物オークと戦うことになった。オークは幸いにして一体だけであり、こちらに気づいている様子はない。
「魔物の瘴気で腐食症状が出るかもしれない。僕が接近して戦う。アジュは後方から矢で援護して」
「うん、わかった」
「それで、ベヒーモスには是非頼みたいことがあるんだけど、あれ、ベヒーモスは?」
ベヒーモスの姿を探すと、遠くの木の影でこちらを見ている豚を発見する。
「あの豚、いつのまに……」
「拙者は戦えないので遠くから応援してるでござるー」
「……うん、よろしく」
「……」
「……」
ベヒーモスのじっと観察するような顔を見て心の中で舌打ちをする。勘の良い豚だ。囮になってもらおうと思ったが、察知されてしまったらしい。
ジオは剣ファルシオンを構え茂みからオークの隙を窺う。どこにいるのかわからないがアジュもうまく姿を隠せているようだ。
(さて、オークは危険な魔物だ。最初の一撃で深傷を負わさないと勝機は薄い。ここはまず首元を狙おう)
オークが背を向けた瞬間、音を出さないように呼吸を止め、いっきに斬りかかった。
--ブァ!? ブア゛ァァァァァ!
「……チッ、浅かったか!」
頸部を狙ったはずが、オークに直前で察知され、顔の前で構えられた左前腕の皮を裂く程度のダメージで終わる。
オークが唸りを上げながら巨大な斧を横に大きく振るう。ジオは咄嗟に身を低くかわした。斧は近くの大木を破壊するように斬り倒す。
--ブアアアアアアアアアア!
「ぐっ! ううっ!」
振り下ろされる斧を必死にかわす。3尺を超える凶悪な刃が振るわれる度に、耳をつんざくような轟音が鳴る。
オークの攻撃は知能の低さから感情任せな攻撃ではあるが、それが少しでも触れれば人間の体など紙でも切るように分断されるのだ。
「ひい!?」
--ブァ!?
横に振られた斧を体勢低くかわした時、ひゅんと耳元で風を切る音が鳴り、矢がオークの手首に命中する。
後ろを振り向くと、距離は多少離れているものの、文字通りジオの直線上真後ろで弓を引いているアジュがいた。
--ブアアアアアアアアアアア!?
「えっ、えっ、なになになになに、怖い怖い怖い怖い」
アジュの矢は次々にジオの体を縫うように放たれる。
「アジュ、僕に当たらないか物凄く怖いんだけど! 一旦攻撃をやめてくれ!」
「ごめん、後にしてくれるかな」
「今聞いて! お願い!」
矢は斧を振り回すオークの手や肩に見事に命中している。がむしゃらに動く相手によく当てられるものだとは思う。
問題はそれがオークではなく自分にも当たるのではないかという恐怖から、仲間であるはずのジオは馬鹿みたいにその場に立ち尽くすしかなかったことだ。
「ジオ氏ー、次でアジュ氏の矢が切れるでござるー」
「りょ、了解した!」
遠くから聞こえた豚の声に感謝しながら、矢に射られ腕が下がったオークに対し、ジオは反撃を仕掛ける。
ジオが得意としている技、全体重と全身の力を剣ファルシオンに乗せた一撃、『ぶった斬り』である。
「くらええッ!」
ジオは頭上より全力でオークの肩へ剣を振り下ろした。魔物は皮が厚く肉も頑強である。病み上がりの力で振り斬れるものではない。
それでもかなりのダメージは期待できる。
「え!?」
剣は存外にオークの右肩へ深く食い込んだ。
それと同時にジオは右腕に『異様な力』を自覚した。
--ブガアアアアアアアアア!
重かったものの、ジオの全力でオークの腰まで振り切ることに成功する。
深く切り裂かれたオークは唸りをあげながら、瘴気となり消えていった。
「何だ、今の……」
ジオは状況がわからず立ち尽くした。オークとは瘴気の領域や国の内にあるダンジョンで遭遇したことはある。だが、ここまでうまく両断できたことなど今までなかった。
「ジオ氏ー! 見事な一撃でござった! 天晴でござる!」
「あ、ありがとう。ベヒーモスもナイスフォローだったよ」
遠くにいた豚がいつのまにか足元をぐるぐると回っている。短い足の癖になかなかに素早い。
「ジオさん、どうしたの? 大丈夫?」
アジュは心配げに近寄ってくる。オークとの戦闘で魔物の瘴気に触れ続けたから、腐食症状ステージ1の呼吸障害を心配しているのだろう。
「大丈夫、何ともないよ。アジュは弓矢が上手なんだね。正直驚いたよ」
「でしょう! 弓はね、結構得意な方なの!」
「僕に当たらないか凄く怖かったけどね……」
「え、そ、そうだったの? ごめんなさい……」
しゅんとなるアジュに緊張が和らぐ。
先程の自分の力は火事場の馬鹿力というものだろうか。何はともあれ魔物を無事討伐することができて良かった。
そのように、ジオは安堵から深く考えることはしなかった。
「さて、戻ろうか。集めた薬草を集会所に提出しよう。あと、瘴気の魔物に遭遇したことも報告しないとね」
「そうだね。あれ、ジオさん、それどうしたの?」
「うん?」
「右腕のところ、アザができてるよ」
「あ、本当だ。さっきの戦闘でぶつけたかな」
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