3話 クエスト 薬草採取①
実力領フリューゲルのマザークリスタルの加護下では人間と動物が共存している。動物は大半が正しい距離を保てば人間を襲ってくることはない。
注意すべきは魔物である。特に瘴気を纏った種『瘴気の魔物』は人間の血肉をよく好むのだ。
◆
フリューゲル南部の僻地にある森にて。この森はマザークリスタルの加護下にあり、比較的安全な地帯である。
ジオはアジュ、ベヒーモスと共に薬草を探しながら森の中を進んでいた。
1時間程歩いた頃、ベヒーモスが草の茂みに顔を突っ込む。
「ジオ氏、雑草を見つけたでござる」
「お、本当だ。こんなところにあったのか。よく気づいたね」
「拙者、鼻にはまぁまぁ自信がありやすんで」
労いを込めてベヒーモスの頭を撫でる。ベビーモスは気持ちよさそうに「プピー」と鳴いた。産毛が固いが暖かくなかなかに良い撫で心地だった。
「ということで、アジュ、これが薬草だ。この形と同じものを探すといいよ」
「うん、わかった」
「……アジュ、あの、僕じゃなくて薬草を見て」
「あっ、ご、ごめんなさい。私、あっちで薬草を探すね」
その後、アジュは下ばかりを見てジオを見なくなる。
「アジュ、ねぇ、アジュ、この森で逸れたら合流は難しい。皆で進もう」
「ごめん、後にしてくれるかな」
「……聞いてないな。仕方がない。アジュに合わせるか」
マイペースに進むアジュに合わせ、ジオとベヒーモスは薬草を採取していく。鼻のきくベヒーモスとかなり集中力のあるアジュにより、作業は順調に進んでいった。
それから2時間後、カバンいっぱいに薬草を集めることができた。
「よし、結構集まったね。皆、お疲れ様。そろそろ帰るよ」
「御意」
ベヒーモスは余った薬草を喰みながら寄ってくる。アジュは未だに薬草探しに夢中であった。
「アジュ、終わったよ。帰ろう」
「ごめん、後にしてくれるかな」
「アジュ、ねぇ、聞いてる?」
アジュの顔を覗き込んだ。
「ごめん、後に……きゃああああああ!? ジジジジオさん!? どどどどどうしたの!?」
「驚かせてすまない。声が聞こえてないみたいだったから。もう薬草は集まったよ。集会所へ戻ろう」
「そ、そっかぁ、無事集まったんだね。良かった……」
帰り道を行こうとした時、ベヒーモスが立ち止まり、森のさらに奥を見つめていることに気づく。
「ベヒーモス、どうかした?」
「ジオ氏、あちらから微かに瘴気の臭いがするでござる」
「何だって!?」
マザークリスタルの加護下にあるこの森で瘴気の臭いがするということは、瘴気の魔物がここまで侵入していることになる。しかし、おかしい。魔物はクリスタルの光を避けるはずなのだ。
「馬鹿な! この森はクリスタルの加護下だぞ! なんで魔物が中に入ってきてるんだ!?」
「かたじけない。拙者にはわからぬでござる」
瘴気の魔物を放置しては瘴気を撒き散らすだけではなく、獰猛であるため街に近づき人間を襲いかねない。即刻討伐する必要があった。
「ジ、ジオさん、どうしよう」
「瘴気の魔物を放置するわけにはいかない。ここはクリスタルの加護下だから魔物は不死身ではないはずだ。僕らで倒すよ。アジュ、武器は持ってきてるね」
「うん、弓矢を少しなら」
「よし、行こう」
「こちらでござる」
前を走るベヒーモスを追いかけながら、ジオは並々ならぬ不穏さを感じていた。
(まさか、クリスタルの加護が弱まってきているとでも言うのか?)
もしそうだとすれば、そう遠くない未来に人間の世界は膨大な瘴気によって腐食されるということになる。
ベヒーモスの案内に従い進むと、人間の身長を優に超える、巨大な人形の魔物が街の方角へと向かっているところであった。
剥き出しの肌は緑色に霞み全身に黒い瘴気を纏っている。
耳と鼻は豚のような形状をしており、瞳は鋭く血に飢えた邪気を放っていた。
そして、その無骨な腕には刃渡り3尺を超える真っ黒な斧が握られている。
その醜悪で凶暴な成りに、ジオ達冒険者はその魔物を『オーク』と呼んでいた。
「く、オークか……。なかなか手強いのが出たな」
病み上がりなジオ、新米なアジュ、そして子豚。相手取るには困難な強敵であった。
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