7話 王国クエスト①

 それからしばらくの間、ジオはアジュとベヒーモス(豚)と共にクエストに行くことが日課となっていた。


 道具屋や鍛冶屋等からの素材採取のクエストで僻地に赴くも、瘴気の魔物と再び遭うことはなかった。



 南方ギルド集会所にて。

 ジオ達はクエスト掲示板の前でどのクエストにするか考えているところであった。


(アジュもベヒーモスもクリスタルの加護下でのクエストには慣れてきている。そろそろ難易度の高いクエストでもいいか。本当は瘴気の領域でのクエストが良いんだけど……く、今日も満員か)


 マザークリスタルの加護から外れた瘴気の領域では、素材採取、行方不明者の捜索、新しいルートの開拓等のクエストが主である。

 瘴気の領域でのクエストは複数のクエストを同時受注できるため、冒険団ギルドにとって最も人気のあるクエストであった。

 残念ながら本日もそれらの依頼書には『満員』と判子が押されていた。


 クエストに参加する者は瘴気の領域の入口まで馬車で移動することになる。

 参加人数に制限があり、ランキングの高いギルドが優先されるため、最下位のギルドはとても参加することができないのだ。


「エクレアさん、少しよろしいですか?」

「?」


 声をかけてきたのは集会所で受付をしている女性であった。近寄ると依頼書と地図を手渡される。


「王国クエスト『新種のダンジョンの調査』? これ、僕らが受けていいの?」

「はい。先程王国から依頼書が届いたのですが、瘴気の領域に人手が取られていて、受注してくださる方がいなくて困っていたのです」

「そうなんだ。それじゃ、遠慮なく受注させてもらおう」

「助かります」


 王国クエストはこの国で最も権力のある王国からの直接の依頼であり、報酬もかなり高額なものとなっている。


「ジオさん、ダンジョンってどんなところ?」

「アジュは初めてか。この国の至るところにいろんな特性のダンジョンがあってね。何もなかったはずなのにいつのまにかダンジョンの入口ができていたなんてこともある。時が経つとダンジョンの形状も変わるから、『ダンジョンは生きているのではないか』という変な噂もあるようだよ」

「へぇ、不思議な話だね。それじゃ、迷わないように気をつけないとだね」

「短時間で道が変わることはないから現在地を見失わなければ問題ないよ。ダンジョンで見つかる遺物は珍しい物が多くて、王国が高額で買い取ってくれるんだ。物によっては一攫千金を狙えるかも」


 アジュの目が輝きいっぱいになる。


「それいいね! 頑張ろう! ジオさん、豚ちゃん!」

「ん? 気のせいでござろうか。今しがた拙者のことを豚と申さなかったか……?」

「ふふ、ダンジョンで宝探しだなんて楽しみだね!」


 豚に豚は失言だったようで、ベヒーモスが低く唸る。アジュにはそんな豚に気づく様子はない。


「今回のダンジョンは南東の森林地帯にあるみたいだ。どんな特性のダンジョンかわからないから、念のためクリスタルの首飾りを借りていこう」


 クリスタルの首飾りとは、マザークリスタルのかけらを首飾りにした物で、集会所にて管理されている。灯りにもなり、短時間であるが瘴気を浄化することができるため、瘴気に触れる際には必須のアイテムであった。

 動物は瘴気の影響を受けないため、ジオは受付から自分とアジュの二人分の首飾りを借り、南東の森へと進んだ。

 


 下車し、森の中を一時間程歩いた先で地図に書かれていたダンジョンの洞穴を発見する。


「これが新種のダンジョンか。ベヒーモスどう? 何か感じる?」

「むむ、この先から瘴気の臭いがするでござる」

「ということは、ダンジョンの中は瘴気で満たされている可能性があるな。クリスタルの首飾りを持ってきて正解だったね」


 ジオ達は瘴気が漂うダンジョンへと進んで行った。

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