6話 南方護衛団

 護衛団は王国直属の機関であり、東西南北の4つの部隊に分かれている。南方護衛団はジオのギルドがあるカタラーナの街も含め、実力領南部の治安維持と南門の護衛を担っていた。


 ジオはアジュと共に南方護衛団の本部に到着した。


「王国直属の護衛団って、なんだか緊張するね」

「アジュは護衛団に来るの初めてか。僕も最初はそうだったな。護衛団って男ばかりだし、イカついイメージあるよね。アイリスは病気の弟さんのために一生懸命働いていて、気のいいヤツなんだ」

「そうなんだ。優しい人なんだね」


 少し緊張が解けた様子のアジュに笑いかけ、門番に告げる。


「エクレアギルドのジオだ。護衛団のアイリスと話がしたい」


 門番のひとりがアイリスを呼びに行ってくれる。

 しばらくした後、アイリスがスイカのような爆乳を上下に揺らしながら走ってきた。


「ジオ、本当にジオなんだな!? 久方ぶりだな! 目覚めたなら何故直ぐに顔を見せに来てくれなかったんだ!」

「ひ、久しぶり、アイリス」


 昔の巨乳に関するトラウマが想起され、急激な吐き気を催す。

 アイリスは苦しいのかシャツのボタンをいくつか外したおり、ボリュームのある谷間が顕となっていた。


「おや、君とは初めて会うな。アイリスだ」

「アジュです。エクレアに先月入りました。アイリスさん、お胸溢れちゃいそうだよ。ボタン止めるの手伝うね」

「あっ、すまない、はしたなかったな」

「わぁ、凄く柔らかいね。おっきくて羨ましいなぁ」

「ううむ、だが日頃の肩凝りがつらいし戦闘の時には揺れで痛むのだ。なんとかならないものか……」


 アイリスとアジュが二人かがりでボタンを止めていく。

 その後ろを門番の男達は血走った目で見ていた。


(ここは男色の強い護衛団だぞ。アイリスは襲われたりしないのかな。心配だ……)



 落ち着いた頃、ややぎこちなく瘴気の魔物とクリスタルの加護下で戦闘になった旨を伝えた。


「成程、南方でもそんなことが起きたのか……」

「アイリス、クリスタルの加護下に魔物がいるなんて異常事態だ。知ってることを教えてくれないか?」


 アイリスは少し考えた後、意を決したようだった。


「王国には極秘とされているがお前達には伝えておこう。今回の件の前に東の僻地で魔物が発生したとの報告がされている。それに関わるものかはわからないが、人々の平均寿命も短縮されている。最近では、虚弱体質の者が当然死するなんてことも起きているようだ」


 愕然とした。以前は寿命は60歳程であったが、何らかの原因でさらに縮まっているらしい。


「クリスタルの加護の範囲に変化はない。ここからは私の推論だ。クリスタルの加護の領域は変わらないが、加護が全体的にのではないかと思う」

「何故、そんなことが起きてると思う?」

「はっきりとしたことは言えないが、私は瘴気によるものじゃないかと思ってる」


 アイリスは遠くに見える黒いモヤを見つめた。


「いつかこの国が瘴気に呑まれることになるとは思っていた。その日は意外にも近かったりするのかもな」

「諦めるのはまだ早い。君には病気の弟さんのこともあるだろう。原因を明らかにして1日でも長く瘴気から生き延びる方法を探すんだ。僕らも協力するからさ」

「ああ、そうだったな。諦めが悪くてどこまでも努力を重ねられる、お前はそんな男だった」

「まぁ、それくらいしかないんでね」


 アイリスと笑い合う。


「ジオ、報告感謝する。瘴気の魔物が出現したら直ぐに気づけるよう街の警備を強化しておこう」

「うん、よろしく」

「聞いたな、フェニックス!」

「フェニックス? フェニックスってあの不死鳥の!?」


 少しすると、アイリスの頭にパタパタと一羽のすずめが舞い降りた。


「は〜い、フェニックスここに〜。街と近辺の巡回を増やすってことでいいかしら〜」

「ああ、頼んだぞ、フェニックス!」

「あじゃ〜皆に知らせるわ〜」


 フェニックスがちゅんちゅんと飛び回ると、その声に応じ街中の鳥が散開し始めた。


「南方護衛団でも動物団員が採用されてるのか……」

「君達のところのシバから紹介されてな。彼女らの目はなかなかに優秀だ。これで異常があったらすぐにわかるだろう」

「成程、って、うわああ!?」


 いつのまにか至近距離に爆乳が迫っていた。アイリスが声を張り上げたために、胸元のボタンが弾け飛んでいたのである。


「ジオ、エクレアから離脱してすまなかったと思っている。弟の治療費が必要だったんだ。でもな、エクレアで過ごしたあの日々は私にとってかけがえのないものだった」

「あ、あああぁぁぁ……」

「信用がないのはわかっている。だが、私はお前達のためなら協力を惜しまないつもりだ。それだけは信じてほしい」

「ああぁぁぁああああああ!」


 その後もアイリスが真面目な顔で何かを話していたが、パニックになっているジオには巨乳以外に認識することはできなかった。



 ジオはアジュと共に護衛団を後にした。


「ジオさん、顔色悪いよ。大丈夫?」

「ちょっと昔のトラウマを思い出して、吐き気がしてしまってね……」

「どれのこと?」

「そ、それは……」


 アジュの曇りなき瞳を前に言葉に詰まる。

 こんな純粋な子に言えるわけがない。


(ん? アジュは今どれのことって言わなかったか?)


「16歳の時に巨乳の女性に赤ちゃんプレイを強行されそうになって、それから女性がトラウマになったんじゃなかったかい?」


 話に割って入ってきたのは、エクレアの幹部ルーシーだった。いつのまにかギルドの前まで帰ってきていたらしい。


「わー! ルー、言うなよ!」

「ジオは副団長になってから結構モテてたからね。顔もこのボクには劣るけどイケてる方だと思うよ。ところで、昔から女性が苦手だった君が何故アジュちゃんは平気なんだい?」

「あ、それはたぶん……」


 アジュの謙虚な胸に視線をやる。


「ジオォォォ! 君はなんて失礼なヤツなんだぁぁぁ! そこで判断するなんてデリカシーに欠けているよ! 君はどうやらボクと女性の敵のようだね! ボクが介助してやるから今ここでくたばりたまえよ!」

「トラウマなんだから仕方ないだろ!」


 ブチギレたルーシーが細剣で攻撃してくるため、ジオは必死に逃げ回った。


 シバが気づいて仲裁するまで、アジュはキョトンとした顔で突っ立ったままだったという。



⭐︎ジオのイメージです。

https://kakuyomu.jp/users/morisuke77/news/16817330653557847693

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