向日葵

@Akatuki-217

向日葵



 


私は花だった。毎日そこに居て、適当に花びらを広げては風に揺られていた。ここでそうして過ごしていれば、可もなく不可もなく毎日を過ごすことが出来ていた。変わり映えの無い日々。私はそれでいて幸せを感じながら生きていた。

そうして私は小さく揺れていたのだ。


ある時、私は太陽に出会った。彼は大きく笑い、大きく手を伸ばし、そして大きく歌っていた。彼はひとりひとりに大きな光と強い熱を届け、私たちを豊かにした。彼の前にはいつも大輪の花が咲き、花々はいつも彼だけを見つめていた。

彼の熱に酔い、彼の温もりを感じ、彼の眩い姿に目を細めつつも、彼から目が離せない。私はいつしか彼を目で追うようになっていた。

彼の光は輝かしくも柔らかく、じんわりと身体に馴染むようで、彼の光と共になれることは、これまで体験したどれよりも幸福な瞬間に思えた。彼は私たちひとりひとりを見て手を伸ばし、そうしていつの間にか傍に存在していた。

私は太陽に心酔していった。彼の温もりが私の日常に喜びを与えた。彼のことを考える度に心は言葉で満たされた。彼の熱を感じる度に身体は歓喜で打ち震え、彼の眩い光に包まれると心に羽が生えたようだった。

強く私の感情を揺さぶり、瞬く間に私の日常を変えていく太陽は、強い熱を帯びながらも柔らかく優しい光で輝いていた。

私の緩やかだった日々は、太陽によって変わってしまっていた。彼の歌を聴き、彼の光を見て、彼の温もりに触れて、世界が放つ本当の輝きを私は知ってしまったのだ。太陽はそれほどまでに力強く光を放っている。見る度に輝きが増すその生命から、私は視線を奪われてしまう。


太陽はいつもそこに存在していた。私が釘付けになるよりもずっと前から、彼はそこに居た。気付いていなかったわけではない。正面から見ようともせず、横目で見て認識したフリをしていた。それでも彼は輝き、私の足元へ光を届けていた。

ある時何気なく顔を上げると、熱く眩い光を放ち輝く太陽があった。あまりの眩しさにすぐ目を閉じてしまったが、今まで見たことの無い輝きに動揺が隠せなかった。私は輝きの正体を知りたくてもう一度彼を見た。彼は私に優しく手を差し伸べ、柔らかな温もりをくれた。熱く燃える炎のように私の心を揺さぶり、優しい笑みで私を包み込み、離さない。そうして太陽に魅了され、彼を目で追う日々が始まったのだった。


今日も太陽の光を浴びて、私は花びらを広げる。大きく、大きく成長したそれは、彼の光を一心に受け止めるように。彼に向けて懸命に背を伸ばす。そうすれば、私を包み込む優しい光と、私を強く掴んで離さない熱を、全身で感じられる。彼のくれる温もりに気持ちを返すように、私は今日も彼だけを見つめる。彼の笑顔に微笑み返す。彼にこの大輪の花が見えるように。








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