第7話『第三試験、実技』
「ファイアーボール!!」
手のひらに魔法陣が浮かび上がり、生成された火の玉がカカシを燃やし尽くす。
木材なので、燃えやすい。
「ねぇ、猫さん、あんなに短い詠唱で魔法が使えるなんてすごいね」
「お嬢、人類っていうのは時代が進むにつれて色々コンパクトになるものなのにゃよ」
「そういうものなのねー」
実践試験のための、小さな闘技場のようなものが幾つも並んでいる。
そして受験生たちがそれぞれ、1人ずつ呼ばれ闘技場に立ち魔法を披露している。
「なにあれ、なんだかオシャレね」
「花束を生み出すくらいにゃら、お嬢もできるんじゃないかにゃ」
「今度、練習してみようかしら」
様々な魔法に囲まれて、人混みを好奇心に導かれながらメアリーは進んでいた。
様々な魔法がある中で、そのほとんどが魔法でカカシを破壊しているものばかり。少しカカシが可哀想に思えてきたメアリーに声が掛けられた。
「あ、メアリー」
「……!アイアミさん、面接どうでした?」
「どう、って言われても……まあ、上手くいったと思うわ」
アイアミは少し困ったように答えて、頬をかく。
と、ちょうどその時に目の前の闘技場で、電撃がバチバチと光り輝いた。メアリーは目を輝かせながらその様子を観察している。
見つめられていることに気がついたメアリーは、アイアミに笑顔を向けた。
「すごい魔法たくさん見れて楽しいねぇ」
「その様子だと、試験には自信がありそうね」
面接前に出会った時と違い、緊張の様子を微塵も見せないメアリーを見てアイアミは興味深そうにメアリーの顔をのぞき込む。
しかし、アイアミのそんな言葉を聞いてメアリーは俯く。
「試験……どんな魔法使えばいいのかな……」
「それは、まあすごい魔法を見せた方がいいのは決まっているけれど、それより失敗しないことが最優先ね」
どれだけ壮大なパフォーマンスを見せることが可能でも、失敗してしまったり時間がかかりすぎてしまったりすれば意味が無くなるとアイアミは言う。
メアリーと、それから特に話を聞いてもいない黒猫はその話に頷く。
「まとめると、自分がいちばん得意な、好きな魔法を使えばいいのよ」
「わかった!」
メアリーは意気込む、そしてまたアイアミの後ろで行われていた試験の方に自然と目を移した。
「ところで、さっきから気になってたんだけど、その紙、B8って書かれてない?」
「え、うん、そうだけど」
手に握っていた紙をアイアミの方へ向けて、首を傾げるメアリーの姿を見て控えめに笑うとアイアミはメアリーの手を引いた。
「私と一緒ね、行きましょうか」
「場所、決まってるの?」
手を引きながら、アイアミは作に括り付けれた看板を示した。そこにはA2と記されていて、メアリーは魔法に目を奪われて周りを見ていなかったことに気がつく。
「知らずにここで油売ってたのね、なら、早く行くわよ」
急ぎ足になったアイアミに手を引かれ、人混みの中を進んでいく。
それでもメアリーの意識は、周りで繰り広げられる魔法たちに惹き付けられていた。
「メアリーホーソン!居ないの!」
「あと五分ほど待って来ないようなら次回しましょう」
「そうね、まだまだ受験生はいるし、はぁ、今日知って疲れるわ本当」
「ほら呼ばれてた」と、アイアミに背中を押されてメアリーは闘技場の内にそっと入った。
柵外からの視線が集中することに、プレッシャーを感じながらも教員らしき2人に声をかける。
「あ、あの!すみません!ほかのの所に行っちゃってて……」
「メアリーホーソンさんね、色々言いたいことはあるけれど、時間がもったいないから、試験始めちゃいましょう」
メガネをかけた女性の教員が、そう言いながら後ろに下がり闘技場の端で腕を組んでメアリーを鋭く睨みつける。
その様子を見守っていた長い髭のおじいさんの教員は、本とペンを持ち目が合ったメアリーに苦笑を送った。
「は、はい!」
「では、どうぞ、魔法を見せてください、攻撃魔法を放つ場合は、わかってるとは思うけどダミーにね」
メガネの教員が、かかしを手で指し示した。
遅刻したせいか、それとも元々なのか少しきつい口調にメアリーは思わず助けを乞うようにおじいさん教員の方へと視線を向ける。
それに気がついたおじいさん教員も、手のひらで、どうぞと軽くジェスチャーを返した。
「……い、いきます!」
「待ちなさい」
魔法を行使するため、さっそく杖を手に持ち呪文を唱えようとしたその時。メガネの教員に呼び止められメアリーは動きを止める。
「実技試験でマジックアイテムを使うのは禁止よ、というか非常識よ、実技試験とは生徒の実力を見定める場、マジックアイテムや予めの強化魔法などは筆記試験で言うところの、カンニングに値するわ」
口調はさらに強くなり、メアリーは一瞬言葉の意味を理解出来ず固まる。
そして言葉の意味を理解しようとした結果、理解に至らなかったメアリーは慌てて弁明を試みる。
「え、ええ!?い、いや待ってください、あの、普通に、杖ですよ!……杖!魔法を使う時に、必要でしょう?」
「……杖?」
「……杖です!」
柵外の人達の雑草が、どよめきに変わっていくことにメアリーは冷や汗が止まらず視線はアイアミ姿を探してしまう。
ようやく発見したアイアミは、手で目を覆っていてさらにメアリーの背中をつたう冷や汗が氷点下を下回る。
「おとぎ話が好きなのはわかるけれど、試験でそういうことされちゃうと困るのよね」
「まあまあ、魔法を使う際のルーティンというものもありますし、杖を調べて問題がなければ許可することにしましょう」
おじいさんの教員が、メガネの教員をなだめるように話しかける。
メガネの教員は唇に指を当てて、思案する。その間というのはメアリーにとって正真正銘の生き地獄だった。
「……そうね、その杖、少し貸して」
「あ、はい……どうぞ」
生きた心地がせず、ぎこちない動きのまま杖をメガネの教員に手渡した。
その間はストレス発散にと、黒猫の肉球を尋常じゃなく揉み続けるメアリーに黒猫は若干嫌な顔をする。
「魔力は込められているけれど、魔法陣等のギミックは仕込まれていないみたいね、それにしても凄いわね、この杖は家宝か何かなの?」
「え?いえ、別にそういうわけでもないですけど……」
「そう……この魔力、すごく長く人の思いに触れ続けたような物ね、大切にしなさい」
丁寧に杖を手渡され、メガネの教員はまた後ろに下がる。おじいさんの教員は、微笑むと手を前に出し、どうぞとジェスチャーをして見せた。
「……いきます」
自分を落ち着かせるため、深呼吸をしてまぶたを閉じる。そのまま、口を開くと共に言葉が零れるように魔法を紡ぐ。
「『大地に命じます、魔の者に従い草花の生命を宿し私を祝福しなさい』」
メアリーがそう唱えると、闘技場の石床に小さな芽が咲き始めて、詠唱が終わると同時に爆発したように草花が咲きこぼれた。
順番待ちや観戦をしている人立ちが混みあっている場外まで草花は、青々と広がった。
一瞬静まり返ったあと、途切れ途切れに微妙な拍手が湧いた。
「……闘技場、ひとつ使えなくなったわね」
「え、え!?え、えっとあの」
「ああ、気にしないで、好きな魔法を使っていい、なんてことにしてるからよくある事よ、そのために替えが沢山あるの」
そういうとメガネの教員は柵外の人々にも聞こえるように場所の変更を伝える、そうすると、大勢の人達が一斉に移動していく。
柵外で順番の待機をしていた生徒たちらしい。
その後を追おうとすると、アイアミがメアリーに駆け寄ってきた。
「すごいじゃない、あんな魔法見た事ないわ、どうやったの?」
「えっと、魔法にお願いする、感じかな?」
「ふふ、それちょっと好きよ」
「あは、あははぁ」
冗談だと受け取られたらしく、その後もメアリーは少し質問責めにされた。
そしてアイアミの番がすぐに回ってくると、闘技場へと上がっていく。アイアミが闘技場に登場すると、人混みが少し騒がしさを増した。
「でた、たしか魔女競技のレジェンドの娘だっけ」
「絶対受かるのにわざわざ試験受ける必要あるのかな」
メアリーが不思議そうにするのを見て、黒猫がアイアミが有名人であるらしいことを教えた。
黒猫の説明に納得したあと、メアリーはアイアミの魔法を期待の眼差しで見守る。
「
地を抉るように、地の底から湧き上がるかのように発生した太く重い雨粒と大地を吹き飛ばすほどの暴風はカカシどころか闘技場そのものを破壊して満足したかのように止む。
魔法の終わりとともに、悲鳴が歓声に変わった。
「まーた、闘技場がダメになった……今移動してもらったばっかりだけどB8の皆様はもう一度移動してくださーい」
またメガネの教員が伝える、今度は少し口調からめんどくさいという感情が見えていた。
「私たち、闘技場をダメにした仲間ね!」
戻ってきたアイアミに、メアリーは興奮しながら嬉しそうに歯を見せながら笑う。
「……うーん、そ、そうね?」
「ふふん、それ…で、試験は、おしまい……なのかな?」
「そうよ、受付で報告して帰ればいいの」
「……なるほど」
アイアミは受付の方向を指さしながらメアリーに教えたが、メアリーの視線は指の指し示す先ではなく放たれた魔法の方へと吸い寄せられている。
「メアリーは魔法、もう少し見ていくの?」
「うん、よくわかったね」
目を輝かせながら魔法を見つめるメアリーを眺めながら、アイアミは答えた。
「ええ、メアリーって、分かりやすいわね」
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