ダンジョン街の落ちこぼれ剣士は美少女にテイムされる

くるる

第1話 俺、テイムされる!

「はぁ。」

本日何度目かのため息を吐きながら石を蹴り飛ばす。


俺はアッシュ・ブレイク。今日18歳になったばかりの冒険者志望だ。


なぜ冒険者なのか。

それは俺の魔法耐性値が極端に低いからだ。


魔法耐性値。

言葉通りチャーム、テイムに代表される他者に干渉する魔法に対する耐性を数値化したもの。

低級魔物は魔法耐性値が低いが中級や上級魔物になるにつれて魔法耐性値が高くなる。

人は平均的に上級魔物と同じほどの魔法耐性値を持っていると言われており、だからこそ誰も魔法耐性値など気にしていない。


俺以外は。


俺の魔法耐性値は歴代冒険者の中でぶっちぎりで低く低級魔物より低い数値らしい。

このまま冒険者になれば敵にチャームなどを食らった場合に味方に攻撃したり、自死させられる可能性が高いため、冒険者になることができないのだ。

故に冒険者志望。


冒険者だった父さんと母さんがダンジョンで死に、二人の悲願だったダンジョン制覇を絶対にすると誓ったのは俺が10歳のころだった。


それから一心不乱に剣の修行に打ち込み、14歳の誕生日に冒険者になるために赴いたギルドで言われた言葉は今でも俺を苦しめている。


「すいません。あなたは魔法耐性値が極端に低いため、冒険者にすることはできません。年齢を重ねれば魔法耐性値も上昇すると考えられますのでまた来年お越しください。」


この呪いの言葉は俺にとって最悪の誕生日プレゼントのようなものだ。

14、15、16、17、そして18の誕生日に全く同じ言葉を聞き続けるというのはさすがに堪える。


「はぁ。」

夜からは酒場でアルバイトだ。

今日はあの有名クラン『妖精の踊りフェアリーダンス』が貸し切りでパーティーをするらしい。


「まだ夜まで時間はたくさんあるし、修練場に行くか!」


落ち込んだ気分を誤魔化すため俺は修練場で汗を流すことにした。




「我がクラン初の40層踏破を記念して盛大にパーティーを行う。みな思い思いに楽しんでくれ。」


妖精の踊りフェアリーダンス』団長のエルザ・プリンと言えばこの街で知らないものはいない有名人だ。

剣と魔法の才能を若くから発揮し、わずか19歳で『妖精の踊り《フェアリーダンス》』を創設。

たった3年間でS級クランに押し上げた大天才だ。


実力だけでなく見た目も美しく彼女に恋をし、振られた男は数知れず。

本人もそれをわずらわしいと思っているのか『妖精の踊りフェアリーダンス』は旗揚げ時から男子禁制を貫く女性のみのクランという特徴を持つ。


「お兄さーん。早く早くー。」


「すいません。お待たせしました!」


総勢6名の女性たちの注文とは思えないほどの注文を受け厨房も給仕もパンク寸前だ。


「すいません。こんなに頼んじゃって。」


その料理のほとんどが目の前の少女が平らげているという事実に少し怖くなる。

この体のどこにこんな大量の料理が入るのだろうか。


「お兄さんこっちこっちー。」


そしてこの女性は先ほどから料理には全く手を付けずお酒ばかり注文している。

その量が半端ではないのだ。

やはりS級クランのメンバーは恐ろしい。


「お兄さんって彼女いるの?一緒に飲まない?」


その忙しさの中酔った女性たちの相手もこなさなければいけないというのが酒場の辛い所だ。

俺は適当に愛想笑いを浮かべながらなんとか配膳を終えることができた。


休憩時間に入り外の空気を吸うために裏手に出ると夜風が心地良い。

もし俺が才能に恵まれていればあんな風に仲間たちとバカ騒ぎできたのだろうか。

なんて意味もないことを考えるのにぴったりだ。


「やあ。」


その声に心臓がドキリとする。


「どうも。」


相手はエルザさんだった。隣には妹のライザ・プリンが申し訳なさそうに立っている。


「どうかされましたか?」


「君はアッシュ・ブレイク君だね。」


「はい。そうですけど。」


「ギルドのおしゃべり娘から聞いたんだが、魔法耐性値が低級魔物より低いというのは本当かい?」


「まあ、はい。」


俺の言葉にエルザさんは嬉しそうに笑うとライザさんの肩をポンと叩く。


「ライザ。テイムしてみてくれ。」


「ごめんなさい店員さん。テイム。」


ライザさんの指から放たれた白く美しい線が俺の胸元に当たり消える。

その瞬間、俺は指一本動かせなくなる。


「すごい。本当に人をテイムできた。ははは。ライザ。調子はどうだい?」


「なんともないよ。きゃ。」


俺は無意識に、というか無理やりライザさんに抱き着かされている。

いくら抵抗しても体が動かないのだ。


「すいません!体が勝手に。」


「ほう。ライザの命令に従っているのか。」


「そ、そそそそ、そんな、私こんな命令出してないよ!」


俺の体はさらに強くライザさんを抱きしめる。

自由に動かせないくせに体の柔らかさや甘い香りは妙にはっきりとわかってしまう。


「なるほど。深層心理でライザは抱きしめられたい。またはそれにまつわる願望を持っている。アッシュ君はそれを抱きしめるという形で再現しているのか。それにその表情。思考はしっかり持っているみたいだね。」


「冷静に分析しないでください!早く戻して!」


「ダメだ。まだ試したいことがある。そのために君の了承が欲しいんだ。」


「了承?」


「そうだ。私はさらなる戦力を欲しているがなかなかいい人材に巡り合えなくてね。今から私と模擬戦をしてもらいたい、勝つことが出来たら我がクランへの入隊を許可しよう。おしゃべり娘から聞いたよ。冒険者になりたいんだろう?」


「本当ですか?でも俺は魔法耐性値が低くて。」


「そこは気にしなくていいよ。文書なんていくらでも偽造できるしテイムをかけられている状態なら干渉魔法は受けない。」


正直かなり怪しい。そもそも『妖精の踊りフェアリーダンス』は男子禁制のはずだ。俺の素性を調べているのも気味が悪いし、戦力という意味なら俺はかなり低いはずだ。まずエルザさんに勝てるわけがない。

だが、そんなくだらないことを考えてこのチャンスを失うわけにはいかない。


「わかりました。俺はエルザさんと戦います。」


「よし。ではさっそく。誰かに見つかる前に始めよう。これが君の剣だ。さぁ構えてくれ。」


「ありがとうございます。」


俺たちは互いに剣を構え、合図を待つ。

才能がなくとも、冒険者になれなくとも、俺はずっと努力してきた。

その全てをこの大天才にぶつける!


「ではライザ。命令してくれ。」


「え?」


「ごめんなさい店員さん。お姉ちゃんを倒してください。」


俺の気合とは裏腹に俺の体は勝手に動き出す。


「え?なんで?え!?」


しかし勝手に動いているはずの俺の体は普段の動きより何倍も鋭い。

その鋭い斬撃をエルザさんは余裕で弾いている。


「思った通りだ。この動きはライザの動きだね。やっぱり今の君にはライザテイマー側の技術が流れている。」


大きく振り下ろした一撃を難なく交わされたが次の一撃が相手を捉えた。


ギンッ。


剣と剣がぶつかり合い、大きな音を立てる。


自分ではやったこともない回転切りは思っている以上に強い斬撃を生み、弾き飛ばされたエルザさんは大きく後退する。


「すごい。だがまだまだだ。これではライザの劣化だよ。もっとだ。もっと見せてくれ。」


くそ!

余裕の表情を崩すためにさらに素早く切りかかるが結果は変わらない。


だったらもっと速く!


俺の連撃に耐え切れなくなったのか、エルザさんは大きく後ろに飛ぶ。


いける!


しかし、着地場所を正確に読み切った俺の突きはあっさりと返された。


「すごいすごい。私に魔法を使わせるなんて。」


エルザさんは空中に浮いていた。


浮遊魔法か。そんなこともできるのか。


それに、浮いているせいで短いスカートから白い布がちらちらと見える。


「あれ?」


目の前が真っ暗になる。目が開かない。


「お姉ちゃんパンツ見えてるよ!」


「別にいいさ。今日は気分がいいんだ。」


やっと目が開いた時には目の前にエルザさんがいた。

そのまま俺の頭をわしわしと撫でてくれる。


「かつての存在した大魔法使いはテイムしたゴブリンに魔法を使わせることができたという話がある。私の想像通り、使い魔となった君はテイマーの力を使い実力以上の力がだせるようだね。」


「あの。俺って。」


「もちろん合格だ。すぐにみんなに会わせたい。ついてきてくれ。」


気づけば体の自由を取り返している。

ライザさんがテイムを解いてくれたんだろう。


「しかし、同じ剣術を使うライザだからできたことなのか?魔法はどうだろう。あはは。可能性が広がるよ。」


「あのエルザさん。楽しそうなところすいません。『妖精の踊りフェアリーダンス』って男子禁制ですよね?男の俺が入ってもいいんですか?」


「確かにそうだな。」


エルザさんは顎に手を当て少し考えるとにこっと笑った。


「君はペットということにしよう。よし決まりだ。」


「え?」


「なにしてるんだ。早く来てくれ。」


こうして俺は夢を追いかけて8年目にしてようやくスタートラインに立てたのだった。

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