3話
謎の依頼から、1週間たち、ようやく、向日葵さんから連絡が来た。
『今日の夜、会える?地図貼っておくから、8時に来て』
と言うものだった。そして、待ち合わせ場所は、大型ショッピングモール。
着ていく服に迷ったが、別に本物の彼女じゃないから、と、普通のパーカーにズボン。超ラフな格好だ。
これは、偽物。依頼。仕事。と唱えながら、待ち合わせ場所に向かったものの、一向に現れる気配がない。彼女いない歴=年齢の僕が、どんな気持ちで、今ここにいるのか、あの人は絶対にわからないだろう。
「ごめん!!待った?」
「い、いえ。今きたばっかで」
嘘つけ!僕。30分待ったんだぞ?30分。アニメが1話見れる時間だ。
彼女は、黒のパーカーに、ショートパンツ。長く、黒より茶色に近い髪の毛は、ポニーテールにしていた。男なら悩殺されるレベルの可愛さだ。
いやいやいや。こちらは、依頼人。依頼人。仕事。仕事。
「で、どこにいくんですか?」
「ちょっと!!冬夜くん。敬語やめてくれない?冬夜くんの方が年上でしょ?」
「え。あ、はい。わかりました」
「ほら。また敬語〜」
「わ、わかった」
「はい、よろしい」
小学校の教師みたいに腰に手を当てて、こくん、と頷く彼女目の前にすると、本当に自分が小学生のような気分になって、心地悪い。
「じゃあ、向日葵さん。どこにいく?」
「あのね。私、ゲームセンターに行ってみたいの」
「へ?ゲーセンに?」
「うん。行ったことなかったから。付き合ってくれるよね?」
「も、もちろん」
と言うことで、僕らはゲーセンへ向かう。向かう最中の、エスカレーターで、行き交う人たちの視線が、僕ら、と言うより、彼女に降り注ぐ。彼女は、ナンパ防止のためだろうか?マスクをしているが、それでも、彼女の魅力は隠しきれていない。
「あ、そうだ。言っていなかったね。この依頼に、条件をつけたいんだけど、いい?」
「条件?」
「そう。条件。3つあるんだけど」
「分かった。何?」
「一つ、プライベートには踏み込まないでください」
「それは、もちろん」
「二つ、私の病気のことを、他人に喋らないでください。絶対に」
「言うわけないじゃないか」
「三つ、私のことを、絶対に好きにならないでください」
「分かった。これを守れば、いいんだな?」
「ええ。そう」
急に何を言い出すかと思ったら。びっくりした。彼女は、ほっとしたように、目尻を垂らした。
「あっ、着いた。ここが、ゲームセンター?」
「そうだね」
久しぶりのゲームセンターは、目がチッカチカするほどの光に、耳がおかしくなりそうなほどのゲームの音楽。流石に夜中だから、人はいないだろうと思ったが、結構いて、それに少し驚きつつも、隣で目を輝かしている向日葵さんを見る。餌を与えられた犬のように、尻尾をふりふりふりながら、早くいこう、と袖を引っ張ってくる。やめてほしい。服が伸びるから、とは言えない。
「あっ、これやりたい!!これ!!」
彼女が指差したのは、でっかいクマのぬいぐるみ(リラ○クマ)のクレーンゲームだった。
「ねえ、500円で6回プレイ可能だって!!お得じゃない?」
「そうだねー」
「ちょっと!!ちゃんと本気になって!!」
彼女、23歳だよな?高校生に見える。いや、小学生か?態度が、あまりにも子供っぽくて。
「右は、大丈夫?左は?奥は?」
「あー、もうちょい奥」
「このくらい?」
「多分」
「じゃあ、いくわよ」
2本爪がぬいぐるみのちょうど首を掴み上げる。隣では目をギラッギラにしながら、頑張れ、頑張れ、とクレーンゲームに向かって唱えている。
ちょうど取り出し口の近くのカーブの衝動で、ぬいぐるみが落ちてしまった。
「あーーー!!!!」
向日葵さんは、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「よし、冬夜くん。もう1回よ!!あと5回もあるんだし。楽勝よ」
意気込んでそう言ったものの、そこから4回失敗。残りは、100円、1プレイ。
「くぅぅ。よし、もうこうなったら、最終兵器冬夜くんの出番!!」
ビシッと僕を指差してきた。
「はっ?」
「ほらほら。冬夜くん、頑張って!これで取れなかったら、私の500円、無駄死にだから」
無駄死にってなに?ていうか、全部向日葵さんがしたんでしょ?
そんな反論の隙も与えず、彼女はスタートのボタンをポチッと押した。
「さあ、冬夜くん。頑張って!!」
最後の最後に僕に全振りするのか。
仕方ない。ゲーセンの神と呼ばれたかった僕が、取ってやるか。
狙うは、ぬいぐるみではなく、ぬいぐるみについている、タグだ。このタグをすくって・・・・・・。
「うわっ。すごい、冬夜くん!!取れてる取れてる!!あっ、落ちた!!すごい、取れたよ!!冬夜くん!!」
ぬいぐるみを抱えて、嬉しそうに笑う向日葵さんに堕ちない男などいないだろう。
「あっ、次はこれしたい」
「あっ、これもしたい」
「じゃあ、次これ」
「これ楽しそう!!やりたいっ!!」
「ねえ、次これ一緒にしよう」
僕は、次から次へやりたいことが増える彼女に振り回されて疲れ果てて、近くのベンチで休憩中。隣には、彼女が取った(4分の3は僕がとった)クレーンゲームの商品が山のように積んである。
当の本人はコインゲームを楽しんでいる最中。
よし。仕返しをしよう。そう勢い込んで、近くの自動販売機でコーラとカルピスを買う。カルピスは、もしかしたら炭酸飲めないかもしれないので、予備で。
「はー。これくらいかな?いや、物足りないかも。あれっ、冬夜くん。どこ行った?」
コインゲームの台から立ち上がった彼女の後ろに、そろりそろり、と近づいて、ペットボトルを彼女の頬に当てる。
彼女は、ニギャッと言って飛び上がった。
「あっははは」
「・・・・・・っ。ちょっと!!冬夜くん!!笑いすぎ!!」
顔を真っ赤にして、栗鼠のようにほっぺたを膨らませる彼女が何を言っても、今の僕には通じない。
「いや、だって。にぎゃって。猫みたいに。くっくっくっくっ」
「・・・・・・っ。もういい!!」
「あはははは。ごめんごめん。はい。これ。疲れたっしょ?」
コーラを渡そうとすると、彼女は膨れた顔で、炭酸飲めないと言った。
「そんなこともあろうかと、カルピス買っておきました〜」
「えっ。すごっ。冬夜くん。未来見えるの?」
「見えるわけないだろ。はい」
「ありがと」
ジト目で僕を見つめながらも、ペットボトルを受け取る彼女。
「あー。楽しかったね。冬夜くん」
「いや。そこまで・・・・・・」
楽しくはなかったと言おうとした瞬間、隣からものすごい殺気を感じた。
あ、そうだ。全く意味のない話だと思うが、どうかスルーしないで聞いてほしい。僕は常々、自分の前世は動物で、しかも、肉食動物ではなく草食動物じゃないかと思う時がある。食い・食われるという食物連鎖の関係の、底辺にいそうな動物。
ただ、殺気に敏感で、少しでも敵の気配を感じると、一目散に逃げていくような、そんな動物(本当にいるかはわからないけど)。
そして、強敵が現れた場合。もう逃げ道はない場合、僕は、本気で
「先生!!めっちゃ楽しかったっす!!もう、人生でトップ3に入るくらい!!」
「そう?よかったぁ〜。つまらなかったらどうしようかと」
「先生は大人しそうなのに、結構お転婆で、めちゃくちゃ子供っぽくて、23歳には見えないほどに」
「えっ!私、子供っぽかった?」
「ええ」
「うっそお〜。だって私、イケてる知的な大人の女性っていうキャラでいこうと思ったのに」
よくその性格でバレないと思ったな。
その後は、彼女を駅まで送って、別れた。その時は、時計の短い針は3を。長い針は12をさしていた。別れ際に、彼女は、次の予定決まったら連絡すると言った。
そして、僕は、一つの事実に気づく。
あれ?これから夜に出かけるってことは、帰りが深夜3時になるってことは、だ。昼夜逆転生活を送っていかなければならないということではないか!!
「はああああああ」
ため息をつくと、幸せが逃げるという言葉があるが、それがもし本当なら、僕は、多分、今、50年分くらいの幸せが、逃げていった気がする。
この世界で1番美しい死に方 うさぎ咲 @usagisaki
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