2話

「夜限定で?」

「ええ。夜限定で」

「理由を、じゃなくて、まずは、名前を」

「ああ。言ってなかったっけ?私の名前は、佐々木向日葵ささきひなた向日葵ひまわりって書いて、ひなた」

「佐々木さんですね」

「名前呼びで大丈夫」

「あっ、そうですか。向日葵さんですね。綺麗な名前ですね」


そういうと彼女は、マスクをしているからよくわからなかったけど、少しだけ、笑った気がした。嬉しいとか、喜びとか、そういう系の笑いじゃなくて、自嘲しているような、そんなかんじ。


「あなたの名前は?」

「月島冬夜」

「綺麗な名前ね」

「・・・・・・ありがとうございます。話を戻すんですけど、なぜ、夜限定なんですか?」

「・・・・・・・・・・」


向日葵さんは、少し、下を向いて、何かを決心したように、口を開いた。


「私、実は、病気なの」

「病気?」


何の?と聞く前に、彼女は、マスクと、サングラスを取り始めた。顕になった顔は、息を呑むほど美しい・・・・・・、というまでには行かないものの、彼女を見た人全員が、美人というだろう。雪のように白い肌に、ぱっちりとした二重。儚い雰囲気なのに、目には強い意志が宿っている。綺麗系と可愛い系を足して2で割ったかんじ。そんな人が、どうして僕なんかに・・・・・・と思うのも無理はないだろう。彼女に言い寄ってくる男は何百人もいるんじゃないか?


「これを、見たらわかるわ」


そして、彼女は自分の腕を見せた。折れそうなほど細く、白い腕に、火傷のような痕がついている。


「これは・・・・・・」

「私ね。日光アレルギーなの。普通の日光アレルギーは、皮膚が爛れたりするだけなんだけどね。私のは特殊で、日光に当たると、中の臓器まで焼けてしまう。だから、昼間は外に出れない。でも、こういう店が空いているのは昼間でしょう?前の店主さんに、困ったことがあったら、ここへ来なさいって、言われたから、来たの」


情報量の多さに、頭がついていかない。日光アレルギー?外へ出られない?それなのに、ここまで来たというのか。


「知人に男の人もいるんだけど、情が移ってしまったら、大変でしょう?だから、知らない他人に、頼もうと思ったの」

「そう、ですか」

「学校には行っていないし、両親がためてくれた貯金は、たくさん余っているから、勿体無いと思って。どう?受けてくれる?」


これは、難しい依頼だ。軽く、どうせ、彼氏と旅行にでも行くから、犬の世話頼みたいわーくらいだと思っていたのに。


ただ、面倒事に首を突っ込みたくない。僕が断ったって、どうせ彼女の容姿から、依頼を受けてくれる男はいるだろう。


よし。断ろう。


「すいません・・・・・・。今回は、」


お引き取りください、と言おうとした瞬間、ガラガラっと部屋のドアが開く音がした。制服を着て、スーパーの買い物袋を2つ持った美少女?が入ってきた。あったらろくでもないことしかしない、僕の、妹だ。


「お兄ー《おにい》!!久しぶりー!!死んでない?生きてる?あれっ?取り込み中?だれ?あれっ?まさか、お兄の彼女?キャー!!えっ、めっちゃ美人じゃん?お兄、いつ、どこで、どうやって、こんな美人さん堕としたの?あっ、もしかして、お兄に騙されちゃったりしていません?大丈夫です?いいんですか?こんなので」

「おい。こんなのって言うな」


僕と兄妹なのに、性格も、顔も、全く似ていない。頭のいいところくらいじゃないか?似てるのは。僕は、イケメンかそうじゃないかって言われたら、イケメンの部類に片足は突っ込めるかもしれないが、笑美は、断然美少女だ。言いたくないが。認めたくないが。バレンタインデーなのに、笑美がチョコレートをスーパーの買い物袋3枚に詰め込んで帰ってきたことがあるくらい。裏表のない性格から、男女問わず人気がある。どうして、これが僕の妹なのだろうか?と疑問を抱いてしまうほどに。

向日葵さんは、目を白黒させながら、誰?というアイコンタクトを取ってくる。


「私、月島冬夜の妹、月島笑美えみでーす!!ちなみに高校2年生です。ちなみに、名前を伺ってもよろしいでしょうかっ!!」

「えっ、あっ、佐々木向日葵よ。向日葵って書いて、ひなたです」

「向日葵さん?あっ、じゃあ、ひなねえって呼んでいいですか?」

「えっ、ええ。もちろん!!」


笑美はどうぞ、と言われた瞬間、彼女の手をとって、ぶんぶん振り回す。


「ありがとう!!私、ずっと前から、お姉ちゃんが欲しかったの!!で、お兄といつ、どこで出会ったんですか?」

「えっ、いや、それは、あの・・・・・・」


どうすればいい?と言うように必死にこっちを見てくる向日葵さん。


そりゃそうだ。カレカノの関係じゃないんだから。しかも、その依頼を断ろうとしたわけであって。


「あー。よかったよかった。安心した。パパ死んで、お兄、ずーっと、死んでたもんね。生き返ってよかった。お兄に春が来てよかった」


本当に、心から嬉しそうに笑う笑美を見て、心が決まった。


「向日葵さん、これからもどうか、よろしくお願いします」


これで、伝わっただろうか?


「ありがとうございます」


笑美に手を握られたまま、頭を下げた。笑美は、えっ?何?みたいな顔をしていたが。


彼女とは、連絡先を交換して、別れた。


で終わりたかったのだが、流石に日光アレルギーで、対策万全だとしても、日光の影響は受ける。と言うことで、なぜか、うちで、ご飯を食べることになった。


食卓には、炊き立てのご飯、味噌汁、唐揚げ、サラダ、フルーツが並んでいる。もちろんだが、これを作ったのは、僕ではない。笑美と、向日葵さんだ。僕が、何か手伝おうか?と笑美に聞くと、お兄がいたらろくでもないことしかしないから、座っておけ、と言われ、肩身の狭い思いをしている。

なぜだ。この家は、俺の家なのに・・・・・・。


笑美は、元々この家に住んでいたのだが、推薦で行ける高校がこの近くにはなく、今は親戚の家から通わせてもらっている。ただ、不甲斐ない兄を、たまに様子を見にきてくれる。

不甲斐ない兄でごめんよ。


正面に笑美と向日葵さんが並んで座っている。そして、とても楽しそうに談笑している。


「ひな姉はどうしてお兄がいいと思ったの?」


おお。妹よ。ナイスクエスチョンだ。


「えっ?そうだねえ。・・・・・・強いて言えば、下心がなさそうだったから?かな?」

「ああ。確かに。お兄にそんな度胸ないし」

「おい。笑美」

「いいじゃん、事実じゃん?」

「ふふふふ。2人は仲がいい兄妹ね」

「そうでしょ?」

「どこがだよ?」


ご飯を食べ終わった後は、笑美が話題をたくさんふってくれて、気まずい空気にならずに、どこにあったのかもわからないトランプとか、人生ゲームとかを楽しんだ。ただ、なぜかどれも僕が最下位なのだ。人生ゲームなんて、破産だの、離婚だの、事故だの、騙されただの、散々な結果だった。


ただ、お陰で、向日葵さんのことを知ることができた。


彼女は、結構な大富豪の長女だそうだ。妹がいるらしい。年齢は、僕の1つ下。ご家族は今も健在だが、彼女の病気ですれ違い、喧嘩中で、今は彼女の祖母の家にいるそうだ。姉妹の仲は良くないそうで、だから、僕たちのことが羨ましいと言っていた。


なんやかんやで、もう日は沈み、月が出ている。時計の針は、10時を指している。


「長くお邪魔しました。じゃあ、また、ね。冬夜くん。次はデートで」

「えっ、あ、はい」

「また来てねー。ひな姉」

「うん。もちろん」


ニコッと笑って、彼女は、夜の街に消えていった。たった1日だけだけど、彼女は、食えない人だと言うことがわかった。


「じゃあ、お兄、そろそろ私も帰るね」

「泊まっていかないのか?」

「うん。もうすぐ期末テストあるし。学年1位の座をわたすわけにはいかないからね」

「そうか。頑張れよ」

「お兄こそ!!ひな姉は絶対に離しちゃダメだからね?」


いや、離すも何も。これは、契約だからな。


「ああ。気をつけて帰れよ?」

「はーい。全く。シスコンなんだから」


長い、長い、1日が、ようやく、終わった。布団にダイブしよう。

と思ったら、笑美のやつ、片付けをしないで帰りやがった!!食器を洗い、トランプと人生ゲームを片付け、風呂に入り、細々としたものを片づけ、ようやく、布団に入ることができたのは、深夜0時だった。

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