おまけ 茉莉花の逆お持ち帰り大作戦


「いったー……!」


『よーっす、茉莉花まつりか。今月の24日は空いているか? 良かったら俺と飲みに行かないか?』


 画面に表示されるそのメッセージを見た私は驚き過ぎてスマホを顔に落とした。


「仁が私をクリスマスデートに誘った……!?」


 12月24日に飲みに行こう。

 言い換えると『クリスマスに俺とデートをしよう』になる。

 クリスマスデート……それにはもれなく恋人達にのみ許された聖夜の儀式も付いて来る。


 これはもうそういう事以外にありえない。


「着る物、下着……毛は大丈夫よね……?」


 スウェットパンツの下に手を這わして準備が出来ているかを確認する。


 その日の事を想定して色々とやらなければならなかった。


 今まで散々、仁には色んなアプローチをしてきた。

 ラフな格好で迫る事による露骨なアピール、腕を組んで登下校という彼女面、高校・大学・バイト先を合わせるという露骨な好意示し……。

 それこそ「好き」という気持ちを伝える以外はやって来たと思う。


 早く彼女彼氏という関係になりたくてハチャメチャに迫っているが、大事な言葉を貰う事には成功していない。


 仁は昔から私と一緒にいてくれる。

 まず間違いなく私の事を好きでいてくれていると思う。


 だからその言葉も出せる環境さえ整えれば、いつか言ってくれる。

 自分でそれを言うのも良いのだけれども、やっぱり仁の方から言って欲しい。

 ……それに万が一、この気持ちを抱いているのが私だけで拒絶されでもしたら怖い。


 ……その時は無理やり押し倒して私の魅力で振り向かせてやるわ。

 まぁ、そんな事にはならないと思うけどね!


 だけど、少し心配な事がある。

 仁は何かと鈍くて考えている事もよく読めない。

 昔から私と居てくれているのは私に好意があるからだと思うけど、言動や表情から仁の気持ちを察するのは幼馴染歴18年の私にも難しい。


「こういう時は……」


 仁とのメッセージのやり取りを完了した私はある奴にメッセージを飛ばした。


 ある奴とは、高校の時に私と仁の二人と対等な友人関係を力づくで無理やり結んで来た生徒会長……仁が彼奴と読んでいる男。


 あまり喋らない仁には私しか友達が居ない。

 仁を一人占め出来るから私はそのままで良かったのだけれど、ある日私達の関係性を面白がって彼奴は近づいて来た。


 今まで誰も仁に近づいて来なかったと言うのに、彼奴は本当に無理やり……思い出したら腹が立って来たわ。

 とは言え、彼奴はコミュ力が高かった為、直ぐに仁を手懐けた。


 ……まぁ、私としても仁に友達が出来るのは嬉しい。

 ムカつくという気持ちの方が圧倒的に大きいけど。


 ちなみに彼奴は「仁に友達が出来ないのは茉莉花ちゃんが原因では?」と言っていたけど、あれはどう意味だったのかしら。

 ただ学校に居る間、仁とくっついていて近づいて来る奴を威圧しているだけれど?


 だけれど、仁に男友達が出来て助かった部分もある。

 仁は私には言えない事でも、彼奴には言う……マジでムカつくわね。

 今度会ったら一発殴ろうかしら。


 なんて彼奴を殴るかどうか葛藤していたら、彼奴からメッセージが返って来た。


『やっほー茉莉花ちゃん。仁とは相変わらずラブラブしているー?』


 そんなメッセージと共にハートマークがモチーフのスタンプが送られてきた。


「『死ね』……送信、と」


 相変わらず軽薄な話方でムカつく。

 男なら仁みたいに言数が少ない方が良い。

 ペラペラ喋りまくる奴は存在がムカつく。


『うーん、良いのかなー? 僕が死んじゃったら仁が何を考えて茉莉花ちゃんを誘ったのか分からなくなっちゃうよー?』


 やっぱりこいつは仁から何かを聞いていたらしい。

 仁には私かこいつしか友達が居ないのだから当然と言えば当然かもしれないけれど、仁について私が分からない事があったらこいつに聞けば解決する。


 だって、仁の相談出来る相手は私とこいつしか居ないもの。

 ……でもこいつに相談するくらいなら私に全部言って欲しい。

 決めた。今度会ったら殴ろう。


 そう決めたら今はこいつに頼るしかないという気持ちに余裕が出来る。

 今は貴重な情報を得られるだけ得て、後でしめる。


「『殺すのは後にしてあげるわ。それで仁は何て言ってたの?』……送信、と」


『なんか仁はね、茉莉花ちゃんで童貞が捨てたいんだってさ』

「『死ね』」

『言う相手間違えているよ?』


 私で童貞を捨てたい。

 ……どういう事なの?


 なんで仁はそれをこいつに言ったんだろうか。

 私に直接言ってくれれば良いのに。

 というか、私以外で捨てたりしたらちょん切るしかないわよ?


「『どういう事なの?』」

『相変わらず仁はあまり喋らないから何を考えているのか分からないけど、本当にそれ以外に言いようが無いんだよね』

「『そっちにはなんて送られて来た訳』」


 そう送信すると、少しした後に写真が送られて来た。

 仁との会話画面だった。


『俺の友人が長年来の友達を襲おうとしているっぽいんだけど、何かアドバイス無い? あとこれは誰にも言うなよ。特に茉莉花とかには』


『任せて、絶対茉莉花ちゃんには言わないから詳しく話してよ』


『ああ。そいつは22歳になった今も童貞のままでいるのが辛くなったらしい。それで身近にいる奴を襲って卒業がしたい……という訳なんだ』


『なるほどね。事情は完璧に察したよ。うーん……それなら一緒に外食に行って楽しくご飯を食べていれば良いと思うよ』


『そんなんでどうにかなるのか……?』


『大丈夫大丈夫。僕の読み通りならこれで全て上手く行くから。仁はいつもと同じように茉莉花ちゃんと楽しくご飯を食べていれば良いと思うよ』


『分かった。そうするわ。助かった』


 そんな会話が繰り広げられていた。


 それを見た私は頭を抱える。

 仁は確かに、聖夜に私と一線を超えようとしていた。

 だけど、それは性欲によるものだった。


 恋愛的な超え方をしてくるのかと思っていたら、性欲。


「はー……これじゃ一人で舞い上がっていた私が馬鹿みたいじゃない。……でもそうか」


 少し落ち込みそうになったが、気を取り直す。


 私は今まで散々、仁の情欲を煽るようなアピールをしてきた。

 私にそんな事をされても仁は顔色一つ変えずに普通にしていたから何の意味も無かったのかと思っていたけど……。


 考えようによっては私のその涙ぐましい行動が遂に実って、仁の情欲が爆発したとも考えられるのではないかしら……?


「でもムカつくわね……」


 例えそうだとしても、私の気持ちが弄ばれた事に変わりは無い。


 仁は私をお持ち帰りしようとしている。

 そんな仁の事を私も弄んでやりたい。


「そうだ。こっちから仕掛けてやるわ……」


 もしかしたら仁は完璧なエスコートをして来るかもしれない。

 その時は素直に任せてあげていいかも……いや、やっぱ嫌だわ!


「逆お持ち帰り作戦よ!」


 決めた。

 完膚なきまでに分からせてやる。


 そう決心したら、スマホが震えた。

 彼奴から追加のメッセージが来た。


『避妊はしっかりするんだよ』

「『死ね!!!』……送信、と。こいつ毎回私の行動読んで来るけど、私ってそんなに分かりやすいかしらね……?」


 それに、その事についてなら心配要らない。

 その道具なら、既に仁の家に山ほど置いてある。

 なんか起こらないかなと期待し、仁の家に遊びに行く度に置いて来た。


 分かりやすく様々な目の付く場所に置いておいたけど、仁はそれに気付いているのかしら。


「そうと決めたら色々用意しないと!」


 お持ち帰りの為の作戦と道具。

 それまでの普通のデートも大成功させたい。


 やらなければならない事は沢山ある。


 12月24日クリスマスイブ、今年はいつもとは違う私で仁に挑んでやる。






今度こそおわり


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ちょっと真剣にお持ち帰りする方法を考えてみる おでん食べるよね @_tokai-oden

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