最終話 お持ち帰りしてみた
「いや、揉みなさいよ! 早く襲いなさいよ! なんでここまでして手を出して来ない訳!?」
口からテープを剥がした茉莉花は凄い剣幕で捲し立てる。。
「え……だって、本人の同意なしに手を出したら、あのゴミ共と同じになっちゃうし……」
そう言いながら、茉莉花に手足に嵌められていた枷を一つ一つ解いていく。
「はーーーー!? いつも合図は出していたでしょーが!!!」
「合図……?」
茉莉花が「襲っていいよ」みたいな事を言っていた記憶がない。
合図はどんな合図だったのだろうか。
人差し指と中指の間に親指を挟んでいたりしたのだろうか?
「かー! これだから朴念仁は!」
「
「大して変わらないわよ!」
いや、変わるだろう。
それだとまるで俺が鈍感みたいでは無いか。
「ほら、ずっと分かりやすくコンドームを置いていたじゃない!」
「置き忘れの可能性もあるかなと……」
「あんな目の付く所にあんな物置いといて忘れる訳が無いでしょーが!」
コンドームに関しては先程まで、「怪しいな?」と思っていた。
でもやっぱり露骨過ぎるんだよな。
そんなアピールの仕方があるかよ……。
まぁ、とは言え。
「合図をしていたという事は取り敢えず分かった。だが、その……そういう行為って好き同士が行うものだろ?」
一番大事なこれだ。
俺も茉莉花も同意を得ずに相手の事を襲おうとしたが、大事な事が頭から抜け落ちていた。
そういう行為は愛し合う者同士が行う行為だ。
決してそんな無理矢理……なんてのはいけないと思う。
さもなければ、あの時の連中と同じになってしまう。
しかし、俺としては大事な事を言ったつもりだったのだが、茉莉花はため息を吐いて頭を抱えていた。
「これだから童貞は……」
「そういう茉莉花はどうなんだよ? ……その経験とか」
「ある訳ないでしょ! 純潔のままよ! とにかく、その条件なら、もう満たされているの!!」
「満たされているって……」
好き同士が行うもの。
それが満たされている。
……満たされている?
「…………俺の事が好きだったのか?」
「……! ええ、そうよ悪い!? こんな暴力的な私と昔からずっと一緒に居てくれて、毎回否定せずに話を聞いてくれて、何をやろうって言っても嫌な顔せずに付き合ってくれて、おまけに守ってくれる……そんなの、そんなのさ、好きになるに決まっているじゃない!」
そう言って、茉莉花は俺の胸に飛び込んで来た。
胸にしがみついた茉莉花は背中に手を回しすすり泣く。
「保育園の頃はね、なんて情けない奴なんだって思ってたわ。何をされてもやり返さない仁を私はいいように扱ってた……ごめんね」
毎日殴って蹴って、物を壊して。
そりゃ当時の俺だって「こいつやべえな……」と思ってた。
保育園当時、頭の天辺で髪を一つ結びした茉莉花に目を付けられないよう大人しく過ごしていた。
「小学校では手の付けられない私のお世話係にされたのに、嫌な顔一つせず面倒みてくれてありがと……とても感謝していたわ。朝の集団登校時も車が走っていようがお構いなしに動き回る私の手を握ってくれてありがとう……きっと、仁がいなかったら大怪我していたと思う」
……それは、先生と親から頼まれたから。
同じ保育園、家も近く、俺達の親間でも繋がりがあった。
茉莉花が暴れて危ないから面倒をみていてくれって。
俺は馬鹿だったから、どうすれば茉莉花が落ち着くか分からなくてとりあえず手を繋いだ。
手を繋がれる事を恥ずかしがった茉莉花から物凄く引っかかれたが、事故に遭われるよりは良い。
「私は……私の事を守ってくれる仁が悪く言われるのが許せなかった……。仁はアホだから知らなかっただろうけど、毎日手を繋いでやって来る私達は色んな人から笑われていたのよ。『夫婦だー、夫婦だー』って……それはもうほんといいように言われていたわ」
……そうだったのか。
だからあんなに毎日暴れて……。
俺の為に毎日あんな事をしていたんだな。
「……中学に上がって子供みたいないじりはされなくなったし、私も大人しくなった。それでも仁は毎日私と一緒に居てくれた。私の部活が終わるまで一人で待っていてくれて、一緒に帰ってくれた」
それはギターの練習をしていたから。
家だと親から「うるさい」って怒られて出来ないから、学校に残ってギターを弾いていた。
ついでに茉莉花の練習が終わるまで待って一緒に帰った。
俺にとって、茉莉花と一緒に帰るのは当たり前の事だったから、何も考えずにそれをやっていた。
「……いつか学祭で仁がギターの演奏をした時は『不味い』って思ったわ。暖簾が上がったら、ステージに一人で微動せずに立っていて、皆が『何だアイツ……』って困惑していたのに、仁が演奏しだしたら空気が変わった。いつも空き教室で一人残ってギターを弾いている不思議な奴が突然めちゃくちゃ上手い演奏始めたらそりゃ皆ビビるわよね」
あーあれか。
俺的には失敗したなと思っていた。
あれをやったらモテるかなと思ったから有志発表に出たのに、特に何も無かった。
「……とてもカッコ良かった。いつも練習している事は知ってたから、仁のその頑張りが認められて自分の事のように嬉しく思ったわ。でも、カッコイイって感じてるのは私だけじゃ無かったみたいなの」
「え……そうなの?」
「そうよ。周りにいた子達は『ね、なんか良くない?』とか仁の事を褒めてたもん」
「そうだったのか……。俺てっきり、やばい奴って思われて終わったのかとばかり……」
「そんな訳ないじゃない。だって、私の仁はカッコイイもん……」
それは贔屓目という奴だろ。
現に俺は、一度も告白された事が無い。
本当にカッコ良かったらそうはならないはずだ。
「私が、私だけが仁がカッコイイ事を知っていたのに、皆たったそれだけを見て煙たがっていた仁の事をカッコイイと思って……! 嫌だったから、仁に告白しようとしていた子は私が全部黙らせてやったわ!」
「え……なんでそんな事を?」
そう言うと、身体にドンと押される衝撃を受けた。
胸ですすり泣きしながら喋っていた茉莉花が俺をベッドへ押し倒した。
俺の事を倒した茉莉花は、昔のように俺へ馬乗りして顔を近づけて来る。
視界が茉莉花の綺麗な顔と、大きな胸にジャックされる。
茉莉花の目からは涙が流れているのに、表情が怒っていた。
瞳に驚く俺の顔が見えるくらい茉莉花は顔を近づける。
「仁を他の子に取られるなんて、絶対に嫌だったんだもん! 当たり前じゃない! 仁は私のものなんだから!? 絶対に誰にも渡さないんだから!!」
そこまで言って茉莉花は顔を離す。
俺の上に座ったまま、茉莉花は泣きじゃくる。
「……高校の時、仁の為に守ってきたものが奪われると思って怖かった。何処の誰とも知らない下品な男連中に私の初体験は奪われるのかって思った」
高校一年の時に起こった事件だ。
茉莉花はずっとなんともない風を装っていたけど、やっぱり怖くて仕方が無かったんだ。
初めて茉莉花の本心を聞いた気がする。
強く、気高く生きている茉莉花は弱音なんて吐かない。
障害なんていつも自分で全部ぶち壊してきた。
「でも、仁が私を助けてくれた。凄く嬉しかったよ。でも、ごめんね。仁の大事なギターを壊しちゃって……」
中学三年間、ずっと持ち歩いていたギターはあれで壊れた。
修復不可能になった相棒は泣く泣く手放した。
だが、それで茉莉花を救えた。
それにギターを壊したのは茉莉花ではない。
「…………ねぇ、好きだよ。昔からずっと仁の事が好きだよ」
「……」
俺は無言で起き上がり、俺の腰の上で泣く茉莉花を見下ろす。
手のひらで涙を拭うように払う茉莉花の顎に手を当て、視線を俺と合わせさせる。
茉莉花は驚きながら赤くなった目で俺の事を見つめていた。
「仁……?」
「俺にとって一番大事なのは茉莉花だ。大事過ぎて手を出すのを怖がっていた。ごめんな、不安にさせて」
そう言って、茉莉花にキスをした。
唇が軽く触れ合うくらいのバードキス。
「……んむぇ!?」
顔を離すと、茉莉花は一瞬固まった後、表情をコロコロと変化させていく。
「え、仁が私にキスした? 仁から私に……?」
茉莉花は混乱していた。
散々人の事を煽っておいて、俺から手を出されるとは思っていなかったようだ。
「きゃっ!」
混乱する茉莉花をベッドに押し倒した。
俺に押し倒された茉莉花は短く悲鳴を上げた。
「じ、仁……?」
泣き止んだ茉莉花が上に乗る俺の事を見上げる。
「……もう我慢しなくて良いんだよな?」
「え、え、え……!?」
「俺が今までどれだけ我慢した事か。昔から茉莉花みたいな可愛い子が近くにいたせいで手を出さない為にどれだけ理性を鍛えた事か……」
「そ、そうなの……?」
茉莉花は昔から可愛かった。
「あの時積み木を壊した女の子に一目ぼれしたんだ。なんて楽しそうに笑う子なんだって」
「……え、そ、え、そ、それって私よね?」
「好きだから一緒にいるのが苦じゃなかった。俺は別に頼まれなくても茉莉花と一緒にいた」
黒い下着に包まれた茉莉花の胸に手を伸ばして、軽く握った。
予想通り……いや、予想以上に茉莉花の胸は柔らかかった。
「ひゃっ……!?」
突然俺に胸を揉まれた茉莉花は今まで聞いた事が無い可愛らしい声を上げた。
不意にベッドの近くに置いてある時計に目が行った。
12月25日1時10分。
まだ性の六時間は終わって無かった。
「好きだ、茉莉花」
俺は茉莉花に襲いかかった。
—————
——チュンチュンチュン。
小鳥のさえずりが外から聞こえる。
俺は椅子に座って2Lペットボトルの水をラッパ飲みしながら、ベッドの上でビクビク震える茉莉花を眺めていた。
「あ、朝までぶっ通しでやるなんて……」
茉莉花は息を切らしながらそう呟いた。
「すまん、やり過ぎた……」
12月25日6時25分。
あれから五時間くらいが経った。
おっぱじめてから一時間くらいまでは茉莉花も「仁、大好きぃ」とか「もっとしてぇ」とか言っていた気がする。
運動部出身で今も継続的に運動をしていてまだ若い茉莉花は流石の体力だった。
俺の方が先に根を上げそうになったが、今まで想いに答えてあげる事が出来なかった分、茉莉花をしっかり愛そうと思い頑張った。
しかし、精根が尽きかけ途中で何回も意識を飛ばした。
ほぼ、無意識で動き続けていたと言っても過言では無い。
二時間くらい経つと「……ねぇ、そろそろ休まない?」とか言っていた気がする。
三時間くらい経つと「仁、聞いてる……?」とか言い出し、四時間くらい経つと「も、もう無理ぃ……」とか泣き始めていたような。
そんな茉莉花が可愛かったのでそう言われる度に俺は頑張った。
そして、空が明るくなってきて小鳥のさえずりが聞こえ始めてきたあたりで俺は止まった。
見ると、茉莉花は涙や鼻水、涎……その他色々な物を垂れ流してぐったりしていた。
その時初めて、やり過ぎていた事に気付いた。
ちなみに俺の身体の至る所には、噛み跡が出来ていた。
「ねぇ、仁」
茉莉花にやり過ぎた事を謝っていると、不意に茉莉花が上目遣いで俺の事を見上げながらそう言って来た。
「……一緒に寝よ?」
裸のままの茉莉花が毛布にくるまりながら、色々な物を拭いて綺麗になった顔で俺の目を見つめながら言う。
俺はそんな茉莉花をベッドに倒し、覆いかぶさる。
「え、ちょ……まっ……こんなはずじゃなかったのにー!」
二回戦目が始まった。
とは言え、ぶっ通しで今までやってきたので一時間もせずに終わった。
終わると頬を膨らませた茉莉花から怒られたが、二人共疲れていたのでくっつきながら直ぐに寝る。
目が覚めると、夕方になっていた。
今日一日何も食べておらず二人共お腹が空いていたので、動けない茉莉花を休ませてご飯を買いに行こうとしたら茉莉花から「シャワー浴びてからいけ」と止められた。
全身に出来た噛み跡を傷にならないよう洗っていると、茉莉花が「一緒に入りたい」と言いながら風呂場に乱入して来た。
当然、三回戦目が始まった。
三回戦目を済ませ、ご飯とケーキを買って帰る頃にはもう夜になっていた。
「まだ痛むわ……」
「本当にすまん……」
腰を押さえて痛がる茉莉花に謝罪し、晩御飯の準備をする。
「いいわよ、やっと手を出してもらえて嬉しかったし……。それよりも一人でご飯買いに行かせてごめんね。外寒く無かった?」
「まぁ寒かったな。なんて言ったって、雪降ってたし」
「嘘! ホワイトクリスマスなんて何年振りよ!?」
茉莉花が腰を引きずりながら窓辺まで向かい、カーテンをめくる。
「本当だ。綺麗……」
外の景色を見た茉莉花がうっとりと呟く。
「……」
白い雪をボーっと眺める茉莉花に俺は見惚れた。
着て来た服が汚れてしまった茉莉花は俺の服を着ている。
上下ともダボダボの灰色スウェットという恰好だ。
結局今年も、クリスマスを茉莉花と二人で過ごしていた。
……だけど今年は変わった部分もある。
おもむろに立ち上がった俺は、棚から紙で包まれた小さな箱を取り出した。
「茉莉花これ、クリスマスプレゼント」
雪を眺めていた茉莉花にそう言って包みを渡す。
「ありがと。開けてみてもいい?」
「ああ」
そう言って茉莉花は紙を綺麗に取り除いていく。
昔ならビリビリと破っていたところだろうが、茉莉花は成長している。
所作の一つ一つから乱暴さが消え、大人の女性へと変わっていく。
「あら、可愛いネックレスじゃない。いつの間にこんな素敵な物を贈れるようになったのよ」
「まぁ俺も成長しているってことだ」
「ふふ、なにそれ」
茉莉花はクスクスと笑い、俺の贈った小さなリングの付いたネックレスを身に着ける。
「どう? 似合ってる?」
「……」
ネックレスを身に着けた茉莉花は更に綺麗だった。
こんな美人で一途な幼馴染と過ごせていけたらどんなに幸せだろうか。
「ねえ、聞いてるの?」
「茉莉花」
「……ど、どうしたの?」
茉莉花の両手を握って目を見つめると、茉莉花はドギマギとした様子で俺の事を見つめた。
「改めてもう一度言う。……茉莉花が好きだ、俺と付き合ってくれ」
目を見てはっきりと言った。
「…………ありがとう。私も仁が大好き。……だから、その、えっと、喜んで……?」
茉莉花はそう言って俺の手を握り返してくれた。
「……初恋は叶うもんなんだな」
「こっちだって18年ものの想いよ」
そう言って俺達は笑って抱き合った。
暫くして放し、テーブルを囲みテレビを見ながら晩御飯を食べる。
人生何があるか分からないとよく言われるが、あれは本当だった。
あの時、俺の積み木を蹴り飛ばした子が彼女になった。
あの時の俺には想像出来なかったことだ。
「……なによ?」
大きく口を開けてケーキを頬張ろうとしていた茉莉花を見ているとそう言われた。
「いや、俺の彼女は可愛いなって」
「当たり前じゃない?」
そう言って茉莉花はケーキを頬張る。
モグモグと幸せそうに食べる茉莉花を見ていたらこっちまで幸せな気持ちになってくる。
自己肯定感の高い彼女を見てケーキを口に入れる。
口に入れたケーキはいつもよりも甘く感じた。
おわり
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