きみに恋をした医薬師のお話 11

 俺達がリトビアの近くにある、小さな村に着いたのは、大きな月が夜空に登り始めた頃だった。


 病室に横たわり、荒々しい息を吐き出して苦しそうにうめく数人の近衛隊の隊員達を目にした時、めまいがしかけた。


(しっかりしろ、俺!)


 彼らの顔は、血が抜き取られたような青白い顔をしていて、同じく精気を吸い取られてしまいそうだった。


 よく、チナンに付いて病気の子供の家を回ったことはあった。


 ただ、それはチナンの助手ということもあり、彼が用意した薬を飲ませたり、眠れない子供達の相手をしたり、そんなに重症な姿を見たことはなかった。


 だが、この場は違った。


 強烈な匂いともがき苦しむ人たちの姿。


 明らかに重々しい空気が漂い、まるで地獄の絵図そのものだった。


「ふたりとも、落ち着け」


 目の前の光景に驚きを隠せない表情を見せながら、語調を荒らげたチナンが言った。


 ナイーダはぎゅっと拳を握りしめたようだったし、俺は俺で大丈夫だ、と唱え続けた。何度も何度も。


「チナン!」


 先に到着していたらしい他の先輩医薬師達が数人、慌ててこちらに向かって駆けてきた。


「状況を説明してくれ」


 隊員達から目を離さず、チナンが低い声を出した。


 後から遅れて馬を走らせてきた医薬師達も、目の前の光景に圧倒されて声も出ないというように固まっている者もいた。


 だが、ただ一言、説明できないのだと、先輩医薬師の一人は言った。


「な、何だと?」


「季節性の風邪でもないようで、熱の一つもないんだ。ただ全員、我々が来た時からずっとこの状態で、いくら薬を与えても効果がない」


「医者は?」


「しばらくずっと一人で動き詰めだったからな。昼間に倒れられたそうだ」


「何だと……」


 医者までか、と眉間に困ったように手をあてたチナンだったが、すぐさま思い立ったように叫んだ。


「ナイーダ、赤い花を捜してきてくれ。できるだけ多く、茎ごとそのまま……」


「え……」


「ぼけっとするな! おまえもだ。おまえも行ってこい!」


「は、はいっ!」


 チナンの声が俺の方にも届き、表情を引き締める。


 赤い花に何があるというのだろうか。


「この季節のこの地域なら咲いているはずだ。見つけたら手当たり次第、持って来てくれ」


 チナンの表情はいつものより強張っていて、俺たちは深い説明を求めることなく、慌てて外へ飛び出した。


 外はすっかり冷え込んでいて、今にも雪が降り出しそうだった。


(あ、赤い花……)


 ナイーダが駆け出したのを見て、俺も別方向に走り出す。


(いそがないと!)


 ナイーダに良い格好を見せたいとか、同じように頑張りたいとか、今はそんな気持ちは一切なくて、ただただ自分にできることならばしたい!その一心だった。


 人生で初めて、こんなにも死ぬ気で何かをしたような気がする。

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