きみに恋をした医薬師のお話 5
ナイーダがこもっている研究室のドアを開こうとしたとき、向こうから先に開かれて心底驚くこととなる。
「やっぱり来ると思ったよ。今日は何だ」
よっ!と戸口から会釈をすると、用がないなら帰れと言わんばかりの様子で鋭い視線が送られる。それでも俺は気にしない。
「数式実験の問題なら俺の方が得意だろ?」
不機嫌な眼差しを俺に送り、ムスッと頬杖をしながらナイーダは手に持つペンを少し苛立ち気味に回した。
「でも、これは自分で解きたいんだ」
「なら他は……」
「分析結果は出ている。他といえば、薬草収集だけど、行ってくれるのか?」
「な、もう、いつもそればっかじゃん!」
呆れたように肩をすくめ、俺は盛大にため息をつく。全くもって進展なし。わかってはいるけど、これではあんまりすぎる。
ぎりぎりのメンタルで目の前の書籍に視線を落とすと、今日もそこには難しい文章でびっしり綴られたものがいくつもいくつも並んでいる。それでもそこにしっかりと赤い付箋がつけられているのだから感心してしまう。
「とっとと終わらせて早くご飯食べないと倒れるよ? 午後から実習だし……」
「さっき少し食べたから大丈夫」
「おまえのさっきっていつだよ。しかも次はあのミセス・カロライナだぞ?」
「ああ、先に行っててくれればいい。すぐに行くから。本当に、約束する!」
ああ言えばこう言うという言葉がぴったり当てはまるように、どの言葉にもしっかりとした言葉が返され、最後にはいつものように、俺はナイーダにうまく言いくるめられてしまった。
「ナイーダ?」
「ん?」
「……いや、何でもない」
本当は少し、心配していた。
朝からナイーダはどことなく悲しそうに見えたから、そんな彼女が気になっていた。
でも、遮断された。
これ以上は立ち入ることを拒否されたような気がして俺はそれ以上そこにいることができなくなってしまった。
たまに見せる、ナイーダの寂しそうな瞳が今日もまた出ていたのだった。
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