第70話 最高の相棒

「俺はいつもおまえが側にいてくれるから強くなれた。俺はおまえが必要なんだ」


 絞り出すようなアルバートの声がする。


 その言葉に耳を疑った。


「あ、アル……」


「おまえに羨ましいって言ってもらえて、本当は嬉しかったよ」


 アルバートは、傷ついている。


 自分がナイーダに対してひどいことを言ってしまったと、それによって馬鹿な行動を起こしてしまったナイーダに深く罪悪感を感じているのだろう。


 彼は、本当はとても優しいのだから。


 だけど、


「ありがとな、アル」


 ここで同情を買うわけにもいかなかった。


「おまえは俺がいなくても十分強いだろ。俺は知ってる。でもな、その言葉が本当なら俺は嬉しい。すごく嬉しい」


 涙が頬を伝う。


「すごく嬉しい……」


 ずっと、彼の力になりたいと思っていた。


 うまくいかなくて勝手に自信をなくして八つ当たりをしたこともあったけど、認めてほしかった。


 ずっとずっと、背中を任せ合う存在として、認めてほしかった。


「この言葉があれば、俺はもうどこにいても強く生きていける」


 なぁ、アル……聞いて。


 肩に押し付けるように埋められた彼の頬に両手を添え、ナイーダは柔らかなの笑みを浮かべた。


「お別れだ」


「ナイーダ……」


 アル、聞いて……。


「好きだよ」


 だから……


「だから、今はお別れだ。どうやら俺も、もう近くにはいられそうにない」


 ごめんな、とナイーダは笑う。


「もう、副隊長として、お前の隣に列べない」


 夢だった。


 希望だったのに。


 大きな瞳からポロポロと涙をこぼして、それでも今までにないすがすがしい表情を浮かべて、ナイーダはアルバートの瞳をしっかり覗き込んでいた。


 そして、でも……と続け、鼻をすする。


「もし、もしも、もしももしももしもいつの日か生まれ変わって、本当の女の子になれる日があるのなら、必ずおまえを奪いに戻ってくる。戻ってくるから。今度は傷一つない、普通の女の子になれたなら」


 アルバートの瞳が見開かれる。


 今度こそ絶望させてしまったかもしれない。アルバートはこんな回答を求めていないのだ。寂しくは思ったものの、それでもナイーダは続けた。


「だから、今はお別れだ。またいつか、本当に必要だと思ってくれた時にまた会おう」


 わかってくれ、と懇願するナイーダの瞳がアルバートに訴えかける。それでも、


「……今のは、おまえが悪いからな」


「えっ……」


 アルバートの表情が引き締まるのを感じ、今度はナイーダが驚く番だった。


「それなら俺がおまえをもらう」


「は……?」


(も、もらう?)


 アルバートが訳のわからないことを言った。


 熱い瞳は自分を捉えて離さない。


「居場所がないのなら、俺の所に来ればいい。それなら問題はないだろ」


 そして唇を塞がれた。


 何が起こったか理解が追いつかず、意味が全くわからなかったナイーダだったが、しっかりと支えるように頭に触れるアルバートの手と優しい温もり持つ彼の唇に気づき、頭が真っ白になった。


「俺が嫁に貰う」


 アルバートの低い声が夜の闇に響いた。

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