第59話 禁断の場所
(……あ、あれ)
急に目眩を感じたのはその時だった。
またか、と思ったときにはすでに遅く、ぐらんと世界が一転したような感覚に片膝を付く。
眼の前で瞳を閉じるリリアーナは硬く目を閉じていて目覚めそうにない。
「お、おい、兄さん……」
「刀を置いてくれ! 俺らはあんたを傷つけに来たんじゃない!」
今にも倒れそうだった。
しかしながら立ち上がる。
もはや気力でしかなかった。
余裕をなくし、殺気だったナイーダが今にも切りかかってきそうだったからだ。
「俺らはここの護衛だ」
彼らは慌ててそう続ける。
「ご、護衛……?」
気を抜けば倒れてしまいそうだった。
それでも必死に自分の体重を支え、歯を食いしばりながらナイーダは問う。
その血走った瞳に男たちは怯んだようだったが、ナイーダは悔しかった。
確かに、女ということでアルバートやセト、そして他の近衛の人間に比べるとナイーダの身体能力は劣っていた。何から何まで。
だから彼女はいつもそれを補うように必死に努力に努力を重ねてきた。だから、一応人並みのことはできたはずだった。
それなのに、最近ずっと、あの遠出の日も同様、ナイーダの体はさらに弱々しくなったように思えた。
体内の何かが狂いだした気がするほどに。
「くっ……」
「お、おい、兄さん、大丈夫かよ。とにかくその御方だけでも急いでここから離そう……」
男が慌ててナイーダに手を貸そうとした時、ナイーダは息をするのがやっとで、だんだん鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。嫌な汗が頬を伝う。
これが、盗賊か何かだったら自分は完全に終わっていたし、大切な姫君を危険に晒すことになっただろう。
不甲斐ない自分自身と自由のきかなくなった体に苛立ちを感じ、ナイーダは震えが止まらなくなる。
全く力の入らない足を必死で踏ん張り、すぐ側の木に寄りかかる。と、いうよりぶつかるようにしてその場に崩れ落ちることしかできなかった。
そして、リリアーナ様……と微動だにしない大切な姫君に手を伸ばす。
反動で切ったのだろうか。
燃えるのような熱と衝撃が肩から胸にかけて激痛となってナイーダを襲った。
「ぐっ……」
その痛みとともに、覚えのある生ぬるい感覚が蘇る。
しかしながらすでに限界で、それ以上に体中を覆う重い気圧のような息苦しさに息ができなくなり、ナイーダはそのまま倒れ込んでしまった。
(ごめん……なさい……)
何をやっても失敗ばかりだ。
(俺……)
今回だってそうだ。
取り返しのつかないことをした。
(ごめ……あ……る……)
遠くなる意識で感じた自分の名を呼ぶ声と、支えられた暖かい大きな腕に思い出したくもなかった忌々しい記憶が脳裏をよぎった。
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