第41話 甘い蜜に酔いしれて

 アルバートの気持ちも知ることなく、ナイーダはナイーダでとても良い気分になっていた。


 意識は朦朧としていたが、先ほどまでいろんな女の子の側にいたと思っていたアルバートが今は自分の側にいてくれている。


 それにいつもより何か心がふわふわして、くすぐったい気持ちになっていた。


「おまえ、酔ってる?」


 アルバートの声が少し低くなったのを微かに感じた。


 それでも酔いの回ったナイーダの頭ではしっかり考えることができず、すぐにそんな不信感は消えた。だから、


「よってないよぉ~」


 と、何を言っているのかと優しい瞳で彼女を見つめる彼を見つめ返す。


「そっか」


 アルバートがにっこりし、やっぱり彼はいつもより優しいとナイーダはとても嬉しくなった。


「やしゃし〜の、めじゅりゃしい……」


 だから、あまり深く考えなかった。


 彼の瞳は、いつもより甘く、それでいて熱を帯びているように感じられた。


「ありゅは、よってりゅのかぁ~?」


「ああ」


 彼は少し考えたようにして言葉を発した。


「そうみたいだ」


 美しい藍色の瞳が少し揺れ、その中にナイーダは自分自身が映って見えた。


 さらっとした金色の髪が自分の額に優しくかかり、整った顔に長い睫毛をすぐ側に感じ、ナイーダは本当に彼はかっこいいなぁと改めて思った。


「ありゅ……?」


 微かに触れた唇に同じ温もりを感じた気がして、ナイーダは少し驚く。


 そして、オベリアがよく言っていた光景をぼーっと思い出していた。


『大切なのは、いかに自然に殿方に身を委ねるかということよ』


(みを……ゆだねる……?)


 なんのことだろうか。


 そんなナイーダの思考を遮るようにゆっくりと唇が重ねられる。


「んっ……」


 じんわりとまた同じ熱がこもり、そして今度は少し息苦しくなった。


「んっ、あ……りゅ……」


(こ、こりぇって……)


「ま、まってぇっ!」


 何度も角度を変えて与えられるその熱に、反射的に思わずアルバートから顔を反らせる。


「だ、だめらよ、ありゅ……」


 力の入らない手で必死に彼を押し返す些細な抵抗にアルバートは驚いたような表情をした。が、


「ありゅはおりぇなんて……」


 半端者なのに、と泣きそうに瞳を潤ませたナイーダに瞳を優しく細め、笑った。


「今日は、助けてくれるんだろ」


「しょ、しょうらけど……」


「好きだよ、ナイーダ」


「ふぇっ……」


「おまえが好きだ」


 なんで気づかないんだろうな、と彼の呟きはナイーダには聞こえない。そのまままた、彼はナイーダの唇を塞いでささやいた。


「来てくれて、ありがとう」


 だんだんぼやけてきた意識の中でアルバートが優しく何度も何度も笑ってくれたように思えた。


 だからナイーダはとても嬉しかった。

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