第30話 乙女たちのパジャマパーティ

「あ、あの……リリアーナ様……」


 ナイーダは唖然としてその名を呼ぶ。


「こ、これはいったい……」


「あら、乙女たちのパジャマパーティよ」


 いつもより早めに寝巻き姿に着替えたリリアーナはそれはそれは美しい笑みを浮かべて手招きの動作でナイーダを呼び寄せる。


 ふわふわのネグリジェに見を包んだ様子は天使のようだ。


「ええ、それは重々承知なのですが……」


 なぜ自分がこの場にいるのだろうかとナイーダは頭を抱える。


「ナイーダ、姫直々に名誉あるお役目を賜ったのよ。感謝してお仕事を真っ当なさい」


 なぜか同じく寝巻き姿でくつろぎきっている姉・オベリアは脳天気な声を上げて手を挙げる。


「あ、姉上……あなたは立場をわきまえなさすぎです! ここをどこだと」


「あら、リリアーナ様からのご招待よ。お断りするはずがないじゃないの。ねぇ、メレディス」


「恐れ多くも」


「なっ!」


 そばに控えるメレディスまでもが寝巻き姿で、いつもナイーダと一緒にいるときには見せたことないおすまし顔でゆっくり頭を垂れた。


「わたくしが誘ったのよ。気の知れた者たちとこうして普通の友人として過ごすのはわたくしの唯一の楽しみなのよ」


 幼い頃からナイーダとその周りの女性陣との交流を深めてきたリリアーナだけに、彼女の言う通り心を許して素の姿で接することができる女性は彼女たちくらいなのだろう。


 たまにこうして公にすることのない小さな会合を開いて集まっていると聞いてはいたが、まさかこんなにもくだけた会だったとは。


 ナイーダは頭を抱える。


「わかりました。では、俺は外で見張りをしておりますので」


 他の業務を突然外されたと思えばこんなところだ。


 しかしながら、大切な姫君のご命令とあっては従わざるを得ない。


「なぜそうなるのよ。外には護衛はたくさんいるわ」


「え?」


「あなたも参加してちょうだい」


「は? お、俺が?」


 む、無理ですよ!と頭を振る。


 どうせ宮廷内のことや互いの恋路をあれやこれや語り合う会なのだ。そんの経験のない自分には無縁の場所なのである。


 なにより、彼女たちのようなふわふわで愛らしい寝巻きなど持ち合わせていない。


「その姿のままでいいわ。ただそこにいてくれたら十分よ」


「はぁ」


 まるでお花畑のようなこの空間に自分のような存在がいていいものなのか。


 ナイーダは考える。そして、


「男としてのあなたの意見も聞きたいのよ」


 そう言われてしまうと断ることもできない。他の隊員に任せるわけにはいかないし、頷かざるを得なくなる。


 何が楽しくていとこや実姉の赤裸々話を聞かねばならないのかと思う気持ちはあるものの、腹をくくるしかなさそうだ。


 室内の証明のほとんどを落とし、ランプを常備するリリアーナはノリノリだ。


 こうしてみるといつもの落ち着きを払った姿ではなくて年頃の女の子のようで心なしかナイーダは安心した。


「ナイーダも楽にしてちょうだい。もちろん今日のあなたはわたくしたちの護衛だけど、あなたにも楽しんでいただけたら嬉しいわ」


 今日は特別なのだとリリアーナ。


「は、はぁ……」


「アルバートはいつも楽しそうに過ごしているのよ」


「は?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえ、思わず乗り出してしまうナイーダにリリアーナはもちろん、他のふたりもクスクス笑う。


「あいつもこの会に参加しているというわけですか?」


「参加しているも何もこの会女性だけの集まりよ。彼は護衛としていてくれるだけよ」


「ナイーダはアルバート様のことになるといつもの冷静さがどこかへ行くのよね」


 ふふふ、と楽しそうな声の中ではめられたのだとナイーダが気づくのはずいぶんあとのお話だ。


 こうして気まぐれに開催されるパジャマパーティは開始し、ナイーダが何度も頭を抱える中、夜更けまで続けられることとなった。

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